2013年9月1日日曜日

スマートグリッドの光と影 再生エネ「地産地消」拡大 総務省、自由化にらむ 工場・発電施設から家庭や企業へ 地方の計画支援

 総務省は電力や熱を地域で融通するエネルギーの「地産地消」の裾野を広げるため、来年度から新たな自治体支援を始める。工場や発電施設から地域の家庭や中小企業に再生可能エネルギーの供給(スマートグリッド等)を検討する自治体に計画づくりの費用として最大約1億円を出す。地域内で電力を融通しやすくなる電力自由化をにらみ、先進的な都市部だけでなく地方でも地産地消に取り組める環境を整える。


あらすじ(Why?)

スマートグリッドとは
 ここ数年、特に震災以降、スマートグリッドという言葉をよく耳にするようになった。スマートグリッド(次世代送電網)とは、ITの力を使い電力の流れを制御する送電網のことだ(実際、定義はさまざまであるが、ここではITによる電力調整とだけ覚えて頂ければよい)。


スマートグリッドの概念図
出典:経済産業省「次世代エネルギーシステムに係る国際標準化に関する研究会」




 私たちは普段何気なく電力を使用しているが、実は電力供給というのは非常に複雑で大変な作業である。まず大前提として、電力需要と供給は常時同じ大きさでなくてはいけない。需要と供給のどちらかが過大になりバランスが崩れると、電気が不安定になり(例えば照明がチカチカする)、最悪停電に至る。

 なので、電力会社の社員は常に地域の電力需要に目を凝らせ、急な気温上昇で電気使用量が伸びたら"火力発電所の発電量5%アップ+水力発電も稼働開始"などという調整をしている(余談だが、彼らは基本的に前日の段階で、"明日は都内でイベントがあるからこの地域の需要が増える"とか"明日は気温が上がりそうだ"などというアナログな予想を立てることで目星をつけている)。

スマートグリッド推進の背景
 このような調整をITを使って常時自動化するのがスマートグリッドである。それならば「ただ自動化するだけで、人手を減らすのが目的なのか」と思われるかもしれないが、そうではない。国がスマートグリッドを推進する背景には、国内の再生可能エネルギーの導入拡大政策がある(例えば固定価格買取制度により、太陽光発電導入量は急拡大中)。そして、その背景には以下の3つがある。

①東日本大震災を受けての電力システム改革
 先ほど、"震災以降スマートグリッドという言葉を聞くようになった"と述べたが、それは東日本大震災が日本の電力供給の脆弱性をあらわにしたからだ。日本の電力供給は基本的に中央集権型で、東京電力や中部電力等の"大手"電力会社が火力発電や原子力発電で大規模に生み出した電気を、発電した者自ら管轄地域に送電するという仕組みだった。

 しかし、原発事故等で彼ら上流の供給機能が途絶え、当然ながら他に電力を作れる会社もないので、電力不足に陥った。おまけに関東より東と中部以西では、周波数も異なり、電力融通もできないという有様だった。

 これを踏まえ、中央集権型の電力供給体制を是正しようというのが電力システム改革である。一例として、発電する会社と送電する会社を分離する「発送電分離」改革がある。つまり、東電のような大手でなくても電力を作れる発電事業者と、それを適切な場所に分配する送電事業者とに分け、もっとコンパクトな地域単位(関東地区ではなく、○○市××地区単位)で電力を融通する仕組みにしようというわけだ。

②国家エネルギー安全保障
 日本をはじめ各国が再生可能エネルギーを推進するのは、地球温暖化のためだけではない。現在多くの先進国は石油等の化石資源を中東などの地政学的に不安定な国に依存している。このことは、石油危機のように、中東の産油国の情勢や意向次第で容易に供給がストップし、経済的に大打撃を受けるリスクを抱えているということを意味する。

 米国のシェールガス革命で今後少しは中東依存が緩和することが予想されるものの、グローバル経済の下、どれか一つの国のつまずきが自国に影響を及ぼすことが避けられない中、エネルギー源を国内に位置づけたいという需要が世界中で高まっている。

③アベノミクス「第3の矢」
 再生可能エネルギーの拡大や電力システム改革は、新たなビジネスフィールド(ブルーオーシャン)として、様々な企業が参入するチャンスを提供する。安倍政権では、これらを成長戦略(第3の矢)として重要視しており、今後さらに規制緩和やインセンティブが増えることが予想される。



ニュース詳細↓

日本経済新聞(8月19日)再生エネ「地産地消」拡大 総務省、自由化にらむ 工場・発電施設から家庭や企業へ 地方の計画支援
http://www.nikkei.com/article/DGKDASFS1900E_Z10C13A8MM0000/


今週の同じ背景を持つ関連ニュース↓

日本経済新聞(9月1日)次世代電力計 全国共通に 経産省、自由化後の競争促す 

日本経済新聞(8月17日)富士通、次世代送電網の節電技術を開発
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD160IY_W3A810C1TJ0000/



このニュースが意味するもの(So What?)

 先に述べたように、アベノミクスの成長戦略の一つとしてのスマートグリッドや電力システム改革は新たなビジネスフィールドとして期待されており、今後さまざまな企業が新たなサービスを生み出していくだろう。

スマートグリッドに関するビジネスの例
・ハウスメーカーのスマートハウス事業(家全体のエネルギー最適化)
・ゼネコン等のスマートビルディング事業
・デマンドレスポンス事業(電力需要ピーク時に節電に協力してくれた家庭に金銭的なサービスを提供)
・蓄電池(家庭用および変電所用)導入による再生可能エネルギーの出力安定化および余剰電力の蓄電

 しかし、世の中の期待とは裏腹に、スマートグリッドを巡っては非常に先行きが不透明であると言わざるを得ない。まず、スマートグリッドを構築するには莫大なコストがかかることを忘れては行けない(こういった「次世代○○」の議論の際にありがちな話だが…)。そして、これが最も大事なのだが、だれがその費用を負担するのかが明確ではないという問題が挙げられる。

 スマグリを用いた電力の地域分散化は、その名の通り地域単位での電力融通のことであるが、その費用を(国以上に財政が苦しい)自治体が出せるのだろうか。そうでなければ、東電等の大手電力会社がお金を出すのか。原発が停止し、経営状況が圧迫している彼らにそんな余裕はないだろう。

 そもそも、大手電力会社はスマグリにネガティブである。今まで中央集権型の電力供給で儲けてきたのだから、その体制を崩すことに賛同しないのは当然である(日本の電力会社の行なう需給調整の制度は非常に高く、本人たちは震災前「すでにスマートグリッドが日本では成立している」と考えていた)。

 紙面上ではスマートグリッドが取りざたされているが、いまいち一般市民としてリアリティを感じられないのは、使う側からすれば「電気が使えればどちらでもいい」からだ。

 今使用している電気が非常に不安定ならばともかく、安定した電力を享受できている状態で、ユーザーとしてはITを用いた電力安定化を行うニーズは発生しにくい(残念ながら、筆者は自分の部屋の明かりが風力由来の電気になりましたと言われたところで、何の心境の変化も起こらない気がする(最初は「へぇ〜」と思うかもしれない))。

 したがって、今後国内でスマートグリッドが普及するためには、例えば、再生可能エネルギーの導入量義務づけや、家庭のスマートメーター設置義務づけのように、国がいかに強い規制やインセンティブを与えるかが鍵を握っていると思われる。