2013年12月23日月曜日

ロシアを取り巻く勢力図の変化 〜「ウクライナ」と「シェールガス」の視点から〜

ニュース概要

 旧ソ連圏第2の大国のウクライナを巡り、欧州連合(EU)とロシアの囲い込み競争が激しさを増してきた。ウクライナを自らの経済圏に取り込もうと、ロシアはガス料金の3割引き下げや150億ドル(約1兆5400億円)にのぼる金融支援で合意。EUも支援額の積み増しに応じる構え。ウクライナのヤヌコビッチ政権はさらなる支援獲得を狙うが、両者をてんびんにかける外交姿勢に不信感も広がっている。(12/18日経新聞:ロシアとEU、ウクライナ支援合戦 ガス値下げや資金協力増額 より)



このニュースの背景(Why?)

 日本にとってはそれ程なじみのある国ではないが、ロシアと欧州の間に位置するウクライナという国が、最近世界の注目を浴びている。同国は現在、欧州からはEUへの統合および自由貿易協定への加盟を要求される一方、ロシアからは欧州とは逆に関税を中心とした保護貿易協定への加盟を求められているのだ。旧ソ連圏のウクライナがEU側に付くのか、ロシア側に付くのか、同国の決断を各国が真剣なまなざしで見守っている。しかし、なぜこの時期にEUがロシアとの対立を深めてまで、ウクライナにまで勢力を伸ばそうとしているのか。それについて、以下にて考察する。


図1 ウクライナの地図
(出典)Wikipedia

背景1:冷戦後も解消されないアメリカ圏 vs 旧ソ連圏の対立構造

 ウクライナは第2次世界大戦からソ連に取り込まれ、半世紀以上社会主義体制の下にあった。1991年のソ連崩壊によって、独立が認められ、念願だった民主主義を取り戻した。独立によりウクライナは、名目上ロシアと対等になったが、実際はエネルギーや経済(貿易)面でロシアに依存せざるを得ず、暗黙の上下関係は今なお残っている(日本とアメリカの関係に類似している)。したがって、ウクライナは中・東欧の国でありつつも、EUとは比較的疎遠であり、ロシアの息がかかった国なのである(因みに、現在のヤヌコビッチ大統領は完全なる親露派である)。

 EU内ではロシアは「戦略的パートナー」と位置づけつつも、勢力としての対立構造は存在している。冷戦が終結したあとも、アメリカ圏 vs 旧ソ連圏という構図は解消されていない。EUは「自由貿易協定」という言葉を切り口にEUへの加盟をウクライナに求めているが、内心は安全保障の面で同国をアメリカ圏側に取り込みたいのだろう。


背景2:米国におけるシェールガス革命

 背景1で、EUとロシアが暗黙の対立をしていると述べたが、最近までEUはロシアに向かって強くものを言うことができなかった。なぜなら、EUは天然ガス等のエネルギー面でロシアに大きく依存しているからである。
 
 欧州諸国はロシアからパイプラインによってガスを輸入している。そして、このパイプラインはウクライナを経由し、欧州に届くルートになっている。2005年にウクライナがロシアとガス料金の問題でもめた際に、ロシアが怒ってウクライナ向けのガスの供給を停止したことで、欧州はガス供給が滞り、大きな被害を被った苦い記憶がある。そのような事も含め、欧州はエネルギー面の「脱ロシア依存」が大きな目標となっていた(ウクライナも同様)。

 そこで現れたのが「シェールガス革命」である。米国において、2008年くらいから資源採掘における技術革新が起こり、膨大な資源量がありながらも経済的に取り出せなかった頁岩(シェール)中のガスを安価に取り出す事ができるようになった。そして、米国内のガス価格は一気に下落し、国内の発電燃料の中心を担うようになった。





図2 頁岩(シェール)
(出典)Wikipedia

 世界最大の天然ガス埋蔵量を誇るロシアは当時、シェールガス革命は米国内だけの話であり、自分たちのビジネスには影響はないとして静観していた。事実アメリカはFTAを結んだ国以外にシェールガスを輸出する意向はないと述べていた。しかし、シェールガス革命はロシアに対し、予想をしていなかった方法で影響を与える事になる。

 米国内でガス発電が主流になったことにより、それまで発電の半分近くを占めていた石炭発電の割合が数年間で40%を切るまで下がった。米国は石炭が豊富であり、そのため石炭発電が盛んだったが、シェールガスの台頭によりガス発電の方が低コストになってしまったため、アメリカの石炭産業は大きな打撃を受けた。

 そこでアメリカの石炭業界は、自国では石炭が売れないので、欧州に輸出する戦略を取った。これにより、欧州には安価な米国産石炭が大量に流れ込み、ヨーロッパ内の石炭マーケットの価格が一気に下落した。それにより、欧州では石炭発電の価格が下がり、石炭が発電の中心的存在になった。そして、ロシアからのガス需要は2010年以降30%近く低下した。つまり、米国とは全く逆の現象が起きたのである。

 これは、ヨーロッパにおけるガスの重要性(=ロシアへの依存度)が低下したことを意味する。要するに、パイプラインでガスを供給しているロシア(正確には国営企業であるガスプロム社)に対し、「もっと安くしてくれないと買わないよ」と(上から目線で)言えるようになった。

 それに追い打ちをかけるように、今度はポーランドやドイツ、そしてウクライナにおいて、米国ほどではないが、大量のシェールガスが発見された。これらの開発によって自国内でガス調達ができればロシアからのガスの重要度はさらに下がることになる。

日本経済新聞(2013年11月7日)ウクライナ、シェールガスを外資と開発 ロシアと溝深まる
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM06042_W3A101C1FF2000/


図3 世界のシェールガス分布図
(出典)米国エネルギー情報局(EIA)



 これに焦ったロシアは、現在、アジアに対するガスの輸出拡大に躍起になっている。特に、世界最大のLNG(液化天然ガス)輸入国である日本は重要なターゲットとしており、プーチン大統領が北方領土問題などで日本にすり寄る動き(これまでは考えられなかった“低姿勢”)を見せるなど、切迫感が垣間見える。

 このように、シェールガスの存在によって、昨今相対的なロシアの影響力が低下しつつある。この機を逃すまいと、EUは旧ソ連圏で同じ“脱ロシア”を目指す勢力を有するウクライナを仲間に引き入れようと動いたと考えられる。


背景3:反EU派勢力の伸長

 ロシアに対するエネルギー依存の問題は改善されつつも、EUはもっと大きな問題を抱えている。EU各国の中で、EUからの離脱を掲げる「反EU派勢力」の政党が拡大しているのだ。キャメロン首相率いる英国の独立党、仏極右政党の国民戦線、ギリシャの「黄金の夜明け」・・・オランダ自由党のウィルダース党首は英テレビ局に「当然、EUからの離脱を主張する」と公言している。

 欧州金融危機を経験し、一つの国(ギリシャ等)が信頼度を失うと加盟国全部がダメージを受けるというリスクが顕在化したことが主な理由だろう。このような内部分裂因子の拡大も、旧ソ連圏の大国かつ優等生であるウクライナの加盟推進に起因していると思われる。


ニュース詳細↓

日本経済新聞(2013年12月17日)EU・ロシア、ウクライナ問題で互いにけん制
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM1700N_X11C13A2EB1000/

日本経済新聞(2013年12月20日)EU、中東欧囲い込み狙う 首脳会議 エネ・貿易 突破口に ウクライナなどに脱ロシア促す 
http://www.nikkei.com/article/DGKDASGM20055_Q3A221C1FF1000/

日本経済新聞(2013年12月20日)ウクライナの囲い込み意欲 定例会見 
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM1904D_Z11C13A2FF1000/



このニュースが意味するもの(So What?)

 プーチン政権下のロシアは、周辺諸国(特に旧ソ連国)に対してかなりの高圧的な外交を取ってきた。しかし、今回のウクライナがEUに口説かれている件に関して、本来であればロシアは強引な態度(“ムチ”外交)を取る場面かもしれないが、ウクライナに対し先日150億ドルの財政支援を行うなど“アメ”外交に注力している。これは、来年に控えるソチ五輪を前に、世界に対し、自国の良いイメージをアピールしたいという思惑があるのだろう。逆に言うと、ロシアにとっては他国に対して強い態度が取りづらい時期とも言え、EUはそこにつけ込んでいるのかもしれない。いずれにせよ、“アメ”外交の勝負になる可能性が高い。

 米国で起きたシェールガス革命は、アメリカ圏つまり“西側勢力”に大きな力を与える事になった。米国はこれまで石油のほとんどは中等頼みだったし、先述の通りEUはロシアにガスパイプラインという首根っこをつかまれてきた。中東やロシアの西側諸国に対する存在感(力の強さ)は“エネルギー・資源供給国である”ことが全てといっても過言ではない。彼らに頼らずとも、米国内およびEU内でシェールガスというエネルギーが産出できることは、世界のパワーバランスの変化につながるだろう。米国は今後中東外交に対する注力度を減らし、アジア外交(TPP等の自由貿易)に重点を置いていく可能性が高い。




 




 

2013年12月1日日曜日

日本は太陽光発電から風力と地熱の国へ   太陽光価格2割下げ 再生エネ、風力・地熱に軸足





        (出典)Wikipedia

ニュース概要

 経済産業省は固定価格買取制度(FIT制度)における、太陽光発電の買い取り価格の引き下げを視野に、再生可能エネルギーの普及策を見直す。電力会社に買い取りを義務づける価格は2015年度に1キロワット時30円と、13年度の38円から2年で2割以上も下げる案が浮上。高コストの発電が増えすぎて利用者の負担が重くなるのを抑えるとともに、風力や地熱の拡大に軸を移す。政府は電源の多様化に必要な規制緩和も進める。


このニュースの背景(Why?)

 現在、先進国・途上国を問わず、世界中で再生可能エネルギーの導入が加速している。しかし、当然と言えば当然であるが、再生可能エネルギー(例えば風力や太陽光)発電は、燃料費はかからないとはいえ、発電するためのコストが化石燃料の発電より非常に高く、普通にやったら全く採算性が合わない

 そこで必要となるのが国のサポートである。例えば、民間企業が風車を立てる際の建設コストの何割かを国が出費する補助金が代表的である。しかし、初期コストが下がっても、いざ発電して電気を買ってもらえなければ発電事業にならない(風力発電や太陽光発電は、基本的に出力の変動が大きく、電力会社はそのような電力を買いたくない)。ではどうすれば導入が進むのか。

 現在世界各国で主流となっている、極めて重要な再生可能エネルギーのインセンティブ政策は2つある。RPS制度と2012年から日本に導入されたFIT制度である。本稿ではこれらの制度の違いを説明しつつ、太陽光から風力や地熱に軸足を移そうとしている政府の動向について言及していきたい。


RPS(Renewables Portfolio Standard)制度

 RPS制度は、政府が各電力会社に対し、彼らが販売する電力量の一定割合を再生可能エネルギー等の電力で賄うことを義務づける制度のことである。我が国では、2003年から導入されている。

 この制度を一言で言うなら、導入する「量」の固定である。ちなみに、定められた量よりも多くの再エネを導入した電力会社は、目標値を達成していない他の電力会社に再エネ電力を売る事ができる。

 なお、ここでのポイントは、「太陽光」「風力」「水力」と分けずに「再生可能エネルギー」(の導入量の固定)とひとくくりにしている点である。その理由は、複数の種類の再エネ電源を電力価格 で競わせ、競争による価格低下を狙うためである。したがって、充分に市場化された複数の 技術を競争させるには適して いるが、 新技術の普及拡大には不適といえる。

 RPSの問題点は、導入する量=再エネの市場規模について、どの程度の市場規模が適切 かという判断を客観的に決めることは難しく、どうしても恣意的になってしまう点である。それは何を意味するかというと、導入量を決める国の審議会において、電気・ガス・石油など、各業界の政治力の 利害調整が大きく響いているということである。実際、日本のRPSの目標値は欧米に比べ一桁小さく、目標達成できなかった場合のペナルティも非常に小さいことからも、業界からの圧力が大きかったことが推察される。


固定価格買取制度(Feed in Tariff : FIT)

 東日本大震災後の2012年7月から、日本では固定価格買取制度が導入された。これは、民間企業でも、個人でも、再生可能エネルギーで発電した電力は、東電等の電力会社に高い価格で売る事ができる制度である(電力会社は強制的に買い取らなくてはならない)。

 この制度は(RPS制度が導入量の固定だったのに対し)再エネで発電した電力の買取価格を固定する。その価格は、RPSと異なり、再エネの種類ごと異なっている。なぜかというと、図1の通り、各再エネごと一定量の電力を生み出すのにかかるコスト(発電コスト)はバラバラだからだ。


図1 日本の再生可能エネルギーの設置コスト

(引用)自然エネルギー財団HP http://jref.or.jp/energy/wind/issues.php

 FIT制度の買取価格は、装置代とか運用コスト等から計算される上記発電コストに、利潤が生まれるような価格を上乗せして設定されている。導入量が増えれば装置価格は下がるので、買取価格も毎年見直される

 例えば、10 kW以上の太陽光の場合、2012年度は42円/kWh、2013年度は37.8円/kWhとなっている。ただし、買い取り価格42円/kWhの年に申請し認定を受ければ、発電開始時期は問わず、開始したタイミングから20年間42円/kWhで売電する事が可能となる。このように、FIT制度では、発電する事業者がもうけられるような仕組みが整えられているのである。

 こうして、様々な企業が儲けようとして再エネ発電事業を行い、国内の再エネ導入量が増えるというのが政府の狙いなのだ。その導入量は、RPSのように固定されていないので、買い取り価格次第では、ある意味導入量は青天井となる。

 特に、太陽光発電の買い取り価格は非常に高く、非住宅用についてはFIT制度前は累積0.9 GWだったのに対し、FIT制度が始まって1年に満たない2013年2月末では11 GWとなっている(認定を受けた数値であり、実際運転しているのは半分以下であるが)。現在のところ、太陽光が再生エネの導入量全体の95%を占めるという非常にアンバランスな状況が日本ではできあがっている。


図2 FIT制度前後の各再エネ導入量の比較
(参考)資源エネルギー庁HP  http://www.enecho.meti.go.jp/saiene/kaitori/kakaku.html


太陽光発電の買い取り価格を下げた背景

 このように、再エネの導入が進んだことは確かに喜ばしいことではあるが、肝心な事を忘れてはならない。それは、FIT制度で導入された再エネ電力の買い取り価格は、全て我々国民の電気料金に跳ね返ってくるという事である。

 認定を受けた設備のうち、全てが運転に至るわけではないが、仮に太陽光発電12 GWを42円×20年間買い取ると、総額7兆円~8兆円の補助金が必要となる、という試算もある。
(参考)http://chinshi.blog102.fc2.com/blog-entry-155.html

 実際、再エネが進んだドイツでもFITによる電力料金の高騰は問題となっている。2000年からFITを始めた同国は、太陽光の急拡大を受け14年の家庭の負担は年3万円近くに達する見通しらしい。また、スペインの財政危機の要因を作ったのはFIT制度による圧迫だったという報道も存在する(財政破綻後スペインはFITの廃止を宣言している)。

 日本の太陽光発電の買い取り価格は世界的に見ても高く、ドイツやスペインと同じ状況が懸念される。太陽光発電は、広く普及したと言えるため、今後は買い取り価格を抑えつつ、他のエネルギーを増やしてバランスを取ろうという話が今回のニュースである。


ニュース詳細

日本経済新聞(11月18日) 太陽光価格2割下げ  再生エネ、風力・地熱に軸足 経産省検討、家庭の負担抑制 
http://www.nikkei.com/article/DGKDASFS17015_X11C13A1MM8000/


このニュースが意味するもの(So What?)

 FIT制度が始まって以来、太陽光偏重の導入が行われ、風力等の他のエネルギーの普及が進んでいない事への批判記事をよく見かけるが、あまり的を得ていないようにも思える。確かに、太陽光の買い取り価格は他と比べても優位性があるのは事実だが、他のエネルギーの導入が1年たっても停滞しているのは、単純な話、太陽光以外のエネルギーは導入までに1年以上かかるからである。

政府の想定通りに再エネ導入は進んでいる  土地があれば、パネルを置いて完了の太陽光発電とは異なり、例えば、風力や地熱は今の制度では環境影響評価(アセスメント)等の手続きが必要で、非常に面倒である。政府は当然それを理解しているのであって、まずは太陽光の導入を進め、FIT制度の明確な実績を出しつつ、その間に水面下で風力や地熱等の規制緩和を進めるという目論みがあったのではないだろうか。





 日本では再エネ=太陽光というイメージが主流だが、それは欧米とは異なる。欧米で再エネといったら「風力」なのである。風力発電は太陽光発電と違い、夜間でも発電ができるメリットがあるのに加え、大事な事だが、発電コストが非常に低い(図1参照)。

実はあまり発電していない太陽光パネル  また、風力の設備稼働率も太陽光より遥かに高い。設備稼働率とは、「一年間のうち、定格出力で運転したのはどれくらいの割合か」を示す数値である。定格出力はkWで表されるが、これは「この装置は“1時間”にどれくらいの電力を生み出せるか」というスペックを表す。これは、陸上競技でいうならば「最高どれくらいの速度で走る力がある人か」を示す。

 しかし、仮に最高30 km/時で走れる人がいるとしても、その速度が「一瞬だけなのか、1時間ずっと30 km/時で走れるのか」は別問題である。発電事業において大事なのは、「走った距離」つまり実際の発電した量である。

 実際、太陽光の設備稼働率は12%程度であり、それは、例えば1 MWの設備規模の発電所があっても、1年間で1時間当たり1 MWhの発電ができている(能力を発揮できている)のはたった12%の時間だけということ。ちなみに、例えばガス火力発電は設備稼働率60%を超える。これでは同じ1MWの発電所だとしても、生み出す電気に大きな差がある事がわかるだろう。ちなみに、風力発電の設備稼働率は20%~30%と太陽光の倍以上である。


地熱発電所(アイスランド)


 また、地熱発電は日本は世界的に資源量が豊富で、建設コストが問題なものの、(地中の温度は変動しないので)出力変動が非常に少なく設備稼働率は80%を超える。

 このように、風力や地熱は大きな可能性を秘めているのであり、それを引き出すために、今後規制緩和の動きが加速していくことは間違いない。





 



2013年11月16日土曜日

薬ネット販売解禁の裏側にあるもの 〜薬事法改正案を閣議決定〜  

ニュース概要

 政府は11月12日、一般用医薬品(大衆薬)のインターネット販売で、一部品目を規制する薬事法改正案を閣議決定した。副作用の強い等の一部の薬を除き、99.8%の大衆薬のネット販売が解禁になることが決まった。なお、病院で処方される処方薬は未だネット販売されない見込み。


このニュースの背景(Why?)



背景1:国の経済成長戦略

 薬のネット販売は、安倍政権における成長戦略において非常に重要な位置づけとなっている。安倍首相は、2013年6月にまとめた「骨太の方針」に関する議論の中で、健康・医療、エネルギー、新規ビジネスの創出などの分野について、規制改革を行っていくことを示しており、その中で医薬品のネット販売解禁は一丁目一番地とされていた。

成長とは何か  
 なぜ成長戦略として薬のネット販売を解禁するかを説明する前に、触れるべき事は、「そもそも成長とは何か」ということだ。少なくとも安倍政権にとっての成長とは「経済的な成長」以外の何者でもない。経済を成長(活性化)させるためには、ともかくお金の流れをよくすることが第一に必要である(反対に“金の流れが悪い”とは、せっかく稼いでも貯金などにより使用しないこと)。具体的には、①企業が儲かる、②消費者がお金を使う、という2点を促進する事である。

誰が何の得をするのか  
 今まで薬局でしか販売されてこなかった医薬品がインターネットという販売手段を得る事は、①製薬会社並びに楽天等のネット企業は新しい販売チャネルおよび商品を得、②消費者はより薬という商品を簡易に購入することができ、購買活動を刺激する事が可能となる。







背景2:国の社会保障費の拡大

 以前の記事でも触れたが、日本は社会保障費の拡大により、「治療型」の医療から「予防型」の医療への転換を図っていると述べた。今回の規制緩和も国の医療費負担を軽減するという目論みが存在すると思われる。詳しくは以下のSo What ?の節で述べる。


背景3:社会情勢の変化

 今回の規制緩和を強くプッシュした楽天等のネット企業は、今後、医薬品ネット販売のニーズが高まる風潮を見越しているのだろう。例えば、少子高齢化が進む中で、家から出ずに薬を買いたいという高齢者の一定の需要は存在すると思われる。実際、“シニアマーケティング”としてワタミの宅配弁当をはじめ、様々な“宅配”サービスが増加している事と、薬のネット販売は無関係ではないだろう。

 同様に、安倍政権でも重要な戦略の一つとして掲げている“女性の社会進出促進”に伴い、働く女性が増えることで、買い物の負担をより軽減したいという需要が増える事が予想される。


背景4:医療大国を目指すための戦略

 安倍政権では、2013年6月に公表された政府の「日本再興戦略」には、「再生医療製品等を世界に先駆けて開発し、素早い承認を経て導入し、同時に世界に輸出する」事が掲げられている。京都大学の山中教授がノーベル賞を受賞したiPS細胞を始め、日本には優れた医療技術があるにもかかわらず、臨床試験等の規制が非常に厳しく、他国と比べ実用化に長い時間がかかる事が問題となっている。

 そのネックとなる法律が、今回の医薬品ネット販売について定めている「薬事法」である。国は、2030年に約1兆円と予想される再生医療市場において日本が優位に立てるよう、この薬事法の緩和に全力を注いでいる最中であり、薬のネット販売解禁はその影響も受けていると考えられる。


ニュース詳細↓

日本経済新聞(2013年11月13日)
http://www.nikkei.com/article/DGKDASGC12012_S3A111C1PP8000/



このニュースが意味するもの(So What?)



処方箋もネット販売解禁か

 今回の規制緩和では、大衆向けの医薬品のみのネット販売解禁であったが、今後処方箋に関する緩和も少しずつ議論が進められるだろう。海外をみると、米国や英国、ドイツなどは既にネット販売が認められている。米国では主治医から薬局に処方箋をメールなどで送り、そこから薬が届く仕組みがある。

 薬を処方してもらうためだけに病院で長時間待つ煩雑さがなくなるほか、過度に病院に出向くことが減れば、医療費の削減にもつながるため、社会保障費の増大に悩む我が国では、大衆薬に続く処方箋のネット販売解禁は重要な可能性を秘めている。
 

Copyright Paylessimages,Inc. All Right Reserved.


ネットの台頭と薬剤師の危機

 今回の規制緩和で決して見逃せないのが、情報提供手段としてのネットのポジションである。これまで「対面」による情報提供(実際説明を受けない場合も多いが…)を義務づけられていた医薬品が、インターネット上の文面だけで対面と同じレベルの情報提供と同義とされることは、ネットの社会的ポジションがこれまでより一段上がったと言っても過言ではない。

 これを恐れていたのは薬剤師連盟であった。現在の医療の現場では、薬の処方を決めるのは医師で、それを薬局で購入するときに情報提供を行うのが薬剤師である。もし薬を買う際に、ネット上に記載された情報だけで良いということを、国が認めてしまったとすれば、薬剤師に取っては「あなた方は要りません」と宣告されたことを意味する。

 実際、薬のネット販売の議論で最も反対を強く表明していたのは薬剤師連盟であり、経済評論家の池田信夫氏のブログによると、反対派の議員連盟に対して薬剤師連盟が3年間で14億円の政治献金(ロビー活動)を行っていたと言われている。氏の言葉を借りるならば、“ロビー活動は生産性の低い業界ほど強い”のだ。

池田信夫blog
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51877418.html

 したがって、今回のニュースは薬剤師市場、さらには大学の薬学部のあり方にも影響を及ぼしていくことが予想される。



2013年11月3日日曜日

ウイグル族の天安門突入事故から読み解く中国の宗教思想  

ニュース概要

 10月31日に、北京の天安門の前に車が突っ込み、巻き込まれた42人が死傷した。中国の警察当局はウイグル独立派組織による組織的なテロだと断定し、容疑者5人を拘束したと発表した。



このニュースの背景(Why?)

 11月9日から開催される、中国の中長期方針を決める共産党中央委員会第3回全体会議(3中全会)を前に、ウイグル族による開催地での暴動は、習政権に大きな衝撃を与えた。中国政府はさらなるウイグル族への取り締まり強化を宣言しているが、本稿では、そもそもなぜウイグル族と中国政府が喧嘩しているのかについて触れてみたい。



背景1:ウイグル族による独立問題 〜中国政府による宗教弾圧〜

  新疆ウイグル自治区は中国の西端に位置し、人口約2000万の半分がイスラム教徒のウイグル族で占められている特殊な地域である。中国が王朝だった時代から独立と従属を繰り返してきている歴史があり、1949年に中国共産党が政権を握ってからは「新疆ウイグル自治区」という名前で完全に併合されている。



図 新疆ウイグル自治区の位置
(引用)The PAGES(11月1日)
http://thepage.jp/detail/20131101-00000002-wordleaf


 中国はの建前上、宗教を否定する社会主義国家(※)なので、イスラム教を信仰するウイグル族の活動について常に監視下に置いている。また、現在中国政府は、新疆ウイグル自治区に大量の漢族を移住させ人口比を逆転させようとしており、政治や経済といった重要な分野では漢人が大きな影響力を持っている。このため一部の住民は中国の統治に対して強く反発し、中国からの分離独立を主張している。

 ウイグル族への圧力は年々強くなる一方で、自治区の治安悪化が問題になっている。一部の報道によると、今の自治区は、礼拝にいくだけで、コーランを持っているだけで、テロリスト扱いされる社会としている。小学校の児童に「ラマダンで断食をしないように」と教え、ウイグル族の学生が鉛筆削り用のナイフを持っているだけで、警察に尋問を受けるらしい。こんな息苦しい社会で暴動が起きない方が不思議である。

※用語:社会主義とは
 社会主義(socialism)とは、「社会の不平等をなくす」ために、私有財産を制限または廃止し、生産手段を(営利目的の)民間企業が持つのではなく、社会(国)が公共のために生産を行う社会を作ろうとする思想または運動のことである。欧米や日本と異なり、市場経済を国家によって統制しようという思想が柱となっている事が大きな特徴で、端的に言えば「大きな政府」を目指す社会である。


(背景1の背景:中国にはなぜ宗教がないのか)

理由1:マルクスによる宗教否定
 前段で、中国は社会主義国家であると述べた。19世紀、社会主義思想の父であるマルクスは、労働者が資本家の搾取によってどれだけ苦しい生活を強いられても、宗教はそれを肯定し、宗教を信じることのみに救いがあるとし、苦しさを精神力で克服させようとしていると分析した。
 その上でマルクスは「宗教は精神のアヘンである」と表現し、宗教がある限り、いつまでたっても労働者の苦しい生活は根本的に解決しないとして思想を築いたことが、社会主義国家一般の根本にある。


図 カール・マルクス(1818〜1883)
(引用)Wikipedia


理由2:国家全体の思想統制
 中国に宗教がないもう一つの理由は、社会主義思想および国に対する忠誠的な思想を統一する必要があるためである。

 もし国民が何らかの宗教に忠誠を誓っていた場合、国家への忠誠・思想の統一は難しくなる。なぜなら、宗教にとって国境も国家も必要ないからである。つまり、信者である国民達は、政治に耳を傾けなくても聖典に耳を傾ければよいというスタンスを取る事になる(もし、国自体を宗教で治めようとするのなら、中東の多数の国の様に、大統領の上の最高指導者を宗教指導者とする必要がある)。

 国民の自由を著しく制限する社会主義は、国民全体が同じベクトルを持っていないと実現は不可能であり、中国は教育やインターネットの検閲を含めて思想(愛国心)の統一を図ろうとしている。むしろ、社会主義思想や中国への愛国心自体が宗教のようなものと言えるだろう。

※ただし、同国にも思想集団化していない、いわゆる土着宗教は存在する。例えば、地元の廟などにお参りしたり、旧正月に場所で爆竹で祝うしきたり等は地域によって見られる。つまり、日本のご利益詣出や季節を祝うときのような対象になる神は存在すると言える。


背景2:資源獲得としての支配

 ウイグル自治区は、原油や天然ガスの埋蔵量が非常に豊富であり、中国としては手の内におさめたい重要な土地である。現在、中国石油天然気集団(CNPC)など漢民族が経営トップの国有石油大手が開発に当たっており、これもウイグル族が不満を抱く一因となっている(ウイグルには資源の恩恵が享受できていない)。経済成長で資源が慢性的に不足気味の中国は、エネルギー安全保障の観点からもウイグル族の独立を認めることができない。



ニュース詳細↓ 

日本経済新聞(10月29日) ウイグル族、漢民族支配に反発 天安門突入
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM2903Z_Z21C13A0FF2000/

日本経済新聞(11月1日) 中国政府、ウイグル族締め付け 反発強まる可能性も
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM31044_R31C13A0FF2000/



このニュースが意味するもの(So What?)

 ウイグル族の暴動は自治区内では「毎日数十人」が地元公安当局に取り締まられる程に増えている。しかし、中国政府は懐柔策に出るどころか、さらに力でねじ伏せるようなスタンスを強化していくと筆者には思われる。現に政府は今回の事件を「テロ」と認識しているのに加え、中国にとってウイグル族の独立問題は、ウイグル - 中国間だけに留まらないスケールの大きい問題だからだ。

多数の少数勢力との緊張関係  
 中国にはチベットやウイグル等の少数派勢力が数十存在する。もし一つの勢力に妥協したり、独立を認めてしまえば、少数派が一斉に中国政府に反旗を翻す可能性があり、中国はよほどのことがない限り、彼らの独立を認めることはないだろう。

手出しが出来ない米国  
 また、今回の事件で着目すべきは、「世界の警察」として人種問題にうるさい米国が本件に関し、何のコメントもしていないことだ。米国にとって、中国がウイグルを弾圧しているのは知りつつも、ウイグルを支持できないのは、彼らが「イスラム勢力」だからである。「テロとの戦い」と称し、イスラム勢力全体に敵対している米国は、ウイグルを支持すれば国際的な(特に中国から“矛盾”を指摘する)非難を浴びかねない。したがって、国際組織もなかなか口出しが難しく、そうなれば中国は強攻策を緩める可能性は高くないだろう。

中東のイスラム勢力との協力に対する懸念  
 最後に、イスラム勢力であるウイグルは、中東の過激派勢力とも今後つながる(既につながっている)可能性がある。もしそのような強力体制が生まれれば、中国国内では本格的な内戦に発展しかねない。それは中国が最も恐れている事である。今後も中国政府とウイグル等の少数民族、そして世界のイスラム勢力を取り巻く緊張状態が緩む事はないだろう。
 







2013年10月29日火曜日

婚活から読み解くソーシャルストリーム  婚活イベント、国が支援 少子化対策で14年度から

ニュース概要

 内閣府は2014年度から結婚相手を探すために地方自治体が開く「婚活イベント」への支援を始める。少子化対策で地域の先進的な取り組みをモデル事業に選定する「地域・少子化危機突破プラン」に公募してもらい、選ばれた自治体には助成する。
 同プラン全体で2014年度予算の概算要求に約2億円を盛り込んだ。自治体による婚活支援は全国に広がっており、少子化対策に役立つと判断した。


あらすじ(Why?)

 “婚活”という言葉が流行りだしたのは筆者の記憶では2008年頃からである。2009年には流行語大賞にノミネートされるなど、今では一種の社会現象となりつつある。最初は「結婚が遅れた女性」の間だけの(切実な意味での)言葉だったのが、次第にビジネスの対象として広く普及し、今回のニュースのように、国家として支援するまでになった。

 本稿ではこの“婚活”現象の背景について考察してみたい。婚活ブームの背景には多様な現象が存在するが、筆者が重要と考えるのは以下の2つである。

背景1:個人主義の時代への移行

 一昔前(昭和)までは「家族」とか「地域」といった“集団”が機能していた時代だった。僕の両親がそうであったように、「お見合い結婚」というのは頻繁にに行われていたし、結婚に関して親が口出しするなんて当たり前だった。“口出し”というのはネガティブな意味だけでなく、30手前で独身の女性(男性)がいたら「周り(両親やご近所さん、会社の上司等)が何とかする」という風習のようなものが存在していた。

 しかし、平成に入り「個人主義」が加速する。個人主義とは、大まかに言えば「個人の意思を第一に尊重し、個人の責任を第一に重んじる」考え方の事である。換言すれば「家や学校、会社、地域といった大きなグループより、一人一人の利益が尊重される」ということである。


(背景1の背景)

 この背景を挙げればきりがないが、米国型の資本主義の流入が主な理由だろう。2000年代、特に小泉内閣以降、様々な規制(国の保護)が撤廃され“自己責任”、“実力主義”の風潮・考え方が強まった。会社の中での年功序列も緩和され、職業も“自己選択”が普通となった。国が将来どうなるか分からない時代、外部に頼るのではなく、「自分で何とかしなくてはいけない」という考え方が若者の中では一般的になった。

 そして結婚も個人主義の例外ではなかった。今では結婚は“自然とするもの”ではなく、自分で動いて(活動して)幸せを勝ちとるものとなった。「婚活」「就活」「離活(離婚活動)」「妊活」・・・2000年代後半からやたら「××活」の言葉が増えた。それは「活」という言葉に表されるように、「個人が動かなくては行けない」時代になった事を意味している。



背景2:女性の社会進出

 婚活現象におけるもう一つの背景には女性の社会進出が挙げられる。図1でオレンジ色で示した線が25〜44歳の女性の就業率である。働く女性の割合は、2000年から堅調に増加しており、厚生労働省によると2020年には73%に達するとしている。このように、「女性が働く」ことが当たり前になった事が彼女らの晩婚化を促進し、婚活現象に至ったと考えられる。


図1 女性の就業率の推移


(出典)総務省「労働力調査」


(背景2の背景)
 なお、女性の就業率の増加の背景には、政府の女性の就業支援策(育児休業制度や子育て支援策等)の寄与が大きいが、それだけではない。背景1で述べた理由による、昔のような「結婚こそが幸せ・ゴール」という価値観や、「男は仕事、女は家庭」という価値観の崩壊、それに伴う女性の高学歴化などが挙げられる。 
 また、見逃せないファクターとして少子高齢化がある。少子高齢化に伴い、国内の労働人口が減少し、GDP成長率も低下している。そのため、政府は国内の労働力を増やす為に、必死になって女性の労働力活用を促進しているのである。

その他の背景
 先ほど述べたように、婚活現象の裏側には様々な現象が複合的に作用している。全てをカバーしているわけではないが、筆者が本稿を記述するにあたり作成したマインドマップを参考までに以下に示す。

Make your own mind maps with Mindomo.




ニュース詳細↓ 

東京新聞(10月17日)婚活イベント、国が支援 少子化対策で14年度から
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013101701001321.html

日本経済新聞(8月31日)婚活、国が応援 自治体イベントに補助金

http://www.lg-ppp.jp/?p=6022


このニュースが意味するもの(So What?)

 政府は少子化対策の一環(下記URLをご参考)として「婚活」を来年度から支援するとしているが、自治体では既に支援の動きが広がっている。内閣府が2011年に公表した調査では、婚活支援事業を実施していた都道府県は31、市区町村は552に上る。

 自治体が積極的に婚活を支援する理由は、「少子化対策」云々とは別の場所にあるように思われる。実際、地域内で結婚してもらうのはいろいろな意味でありがたいのだ。


 もちろん、多くの自治体では若者人口が減少し、さらには過疎化が叫ばれている時代、地域に定住してもらえる意味でのメリットがある。しかし、さらに重要なのは経済効果である。一組のカップルが結婚すると、当然結婚式場も儲かり、家具屋も儲かり、不動産も儲かり・・・というように経済波及効果が非常に大きいのだ。


 あくまで推測にすぎないが、国が支援する理由には、少子化という長期的な話だけでなく、短期的に効果が出る経済的なメリットも加味してこの政策を行っているのではないか。少子化の時代は結婚産業(式場)は下火と言われるが、これからは結婚式場単体ではなく、公共機関やイベント企画企業等との連携によって、様々なビジネス形態が生まれてく可能性がある。


(参考)少子化危機突破のための緊急対策(2013年6月7日)

http://www8.cao.go.jp/shoushi/01about/pdf/kinkyu.pdf


 

2013年10月19日土曜日

コンビニから読み解くソーシャルストリーム  高品質PB(プライベートブランド)を集客の目玉に コンビニ・スーパー、収益も改善

あらすじ(Why?)


 最近、コンビニエンスストアやイオン等のスーパーで“PB商品”をよく見かけるようになった。PB(プライベートブランド)とは、小売り・卸売り業者が自ら独自のブランド(商標)で販売する商品である。「自主企画商品」とも言われる。因みに、PBでない商品、つまり大手企業が製造した商品はNB(ナショナルブランド)と呼ばれる。

 イオンの「トップバリュー」、セブン&アイ・ホールディングスの「セブンプレミアム」及び「セブンゴールド」が代表的であるが、ローソンやファミリーマート、スーパーではマルエツやイズミも力を注ぐ動きが見られる。

 最近のPBブームに共通するのは一点、“高品質志向”であるということだ。コンビニ各社がPBを立ち上げるのは、「(ユニクロのように)自社のネットワーク(流通網)を活かし、原料〜製造〜販売までの一貫体制を取る事でコストを低減するため」と思われがちである。確かに大きな理由の一つであることは間違いないが、もっと重要な要素が他にもある。PBの歴史を振り返りながら考察していきたい。

第1次PB時代
 日本で最初にPBが流通したのは1970年代の話である。ここでは「第1次PB時代と呼ぶ」当時は高度経済成長のもと、大規模生産体制によるNB(大手企業商品)の市場が拡大し、小売業としては苦労せず様々な商品を品揃えできるようになった。しかし、そのため小売り各社はNBの安売り競争に陥り、利幅がとれなくなるという問題を抱えていた。

 そこで、“ちゃんと利益を確保して、安く売る事を可能にする”ためにPBの存在がクローズアップされたのである。中でもダイエーはPBの代表的な1社で、同社が販売した5万円代の13型カラーテレビは大きな話題を呼んだ。

 しかし、その後バブル経済のもと、価格訴求型のPBはかつてほどの脚光を浴びなくなっていく。

 バブル崩壊後の不況下において、将来不安から消費者の節約意識は高まり、企業同士の安うり競争がどんどん激しくなっていった(デフレ)。そんな状況もあり、流通業界の大手企業はNBのイミテーション的な低価格型PBの開発にこぞって力を入れていった。イオンのトップバリュが代表的な例である。

第2次PB時代への突入
 しかし、そんな中、2007年にセブン&アイ・ホールディングスは、“クオリティ重視型”PBである「セブンプレミアム」を販売開始し、大ヒットを遂げる。

 同社はさらに、一段上の価値を追求した「セブンゴールド」を販売開始し、またもや成功をおさめる。

 このヒットの理由は、商品の価格(コストパフォーマンス)ではない。“新しいもの”と“(少し高くても)質の高いもの”を求める消費者のニーズを的確に読み取った戦略にある。実際、この消費者ニーズは少し前から別の形で兆候が現れていた。


日本人の“豊かさ”概念の変化
 1980年代初頭、日本人のマインドは大きなパラダイム転換期を迎える。“豊かさ”の概念に変化が起こったのだ。この時期、戦後初めて「物質的にある程度豊かになったので、これからは心の豊かさやゆとりのある 生活をすることに重きをおきたい」と答える人の割合が日本人の過半数を超えた(総理府統計より)。以来、この差は開き続けている。

 これが意味するのは、物質的に十分満たされている我が国では、「“同じような”モノが“安く”手に入る」だけでは今や私たちは満足する事ができず、“多少お金を払っても”、“他とは違う質の高い”モノを求める志向があるということである。昨今どのジャンルにおいても「オンリーワン」とか「プレミアム」とか「期間限定」という単語が使われる事があるが、これらは間違いなく不可分な関係にある。

 今回のニュースにあるローソンやファミリーマートの高品質PB事業への力点の変化は、セブンイレブンがある意味“発掘”した日本人の上記ストリームへのキャッチアップと言えるだろう。

ニュース詳細↓


日本経済新聞(10月16日)高品質PBを集客の目玉に コンビニ・スーパー、収益も改善 
ローソン、最高値の食パン 東急ストアは7割増の500品に 
  

このニュースが意味するもの(So What?)


  先に述べた日本人の「新しいもの」「高品質」志向は今後の企業動向を読み解く上で非常に重要なポイントとも言えるだろう。もちろん、(とりわけ「高品質」については)所得および景気の影響を大きく受けるため、不安定な潮流と言わざるを得ない。しかし、アベノミクスで消費者心理や購買力は改善傾向にある為、短中期的には「高品質」志向は継続していくだろう。

 なお、おそらく今後、小売り業界や流通業界でPBは増えていくだろう。本来小売り等の大企業は、大量に仕入れる代わりに仕入れ価格を安くする「スケールメリット」が使えるが、バブル以降再編(淘汰)が進んだ現在、大企業同士の戦いでは、スケールメリットは差別化要因とはならないからだ。今後はいかに「独自商品」、「新しい商品」を出すかの勝負となり、そのための手段としてPBが拡大していくと思われる。



(参考)

【書評】つながる脳 藤井直敬 (その2)


 突然ですが質問です。「あなたにこれから1000円を渡します。この1000円のうち、いくらでも良いので隣りの部屋にいる人に分け与えて下さい。残りはあなたの報酬になります。」と言われたら、あなたはどうしますか?いくらの金額を払いますか?

 これは脳化学では有名な実験です。よく考えれば分かる通り、これは相手からのレスポンスがないために非常に単純に見えますし、合理的に考えるなら、1円だって払う理由はありません。

 しかし、実際は実験の参加者は平均20%前後の金額(200円)を隣りの部屋の見ず知らずの人に支払います。支払うメリットは明らかにないのに、それでもゲームの参加者はいくらか支払ってしまうのです。

20%の希望

 一般にこの実験の結果は、実験での行動選択が自分の評判に影響を及ぼすことを心配しての結果と解釈されています。つまり、たとえ明確な他社がそこにいなくても、社会の中の自分に体する評判を保つという目的のためには、自分の分け前のうち2割程度のコストを払うことは価値があると思っているという事です。

 これは人の不合理な部分を説明する際に引用される事が多いのですが、逆の意味で、ヒトが他者との関係性を保つためのコストを支払う準備があることを示しています(2割というのは結構な割合です)。藤井氏は、ヒトが関係性維持の為に積極的に支払っても良いとする、この2割のリソースをうまくつかうことで、何らかの社会の仕組みができるのではないか、と述べています。

カネとホメ

 もう一つ興味深い実験が示されています。生理学研究所の定藤氏のグループで行ったfMRIの実験では、報酬として金銭(100円〜400円前後)を得られる課題社会報酬(ホメ)を得られる課題の2つを行い、“カネ”と“ホメ”それぞれの報酬を得た際の脳の動きを観察します。
 
 結果は驚く事に、金銭課題と社会的課題で活発化した脳の部分は全く同じ場所(基底核の線条体)だったのです。そして活動の強さは、誉められる課題の場合の方が金銭課題よりも大きいという結果でした。
 
 この実験が示しているのは、われわれの行動の動機づけとなっているカネの影響と、社会的な報酬(ホメ)の間には、共通の神経メカニズムが働いているということです。


この本のSo What ?

 現在私たちは、経済学でいう“合理的な経済人”つまり、金銭的な自己利益の最大化を図る個体モデルをベースにした資本主義社会に生きています。つまり、行動の動機・インセンティブはカネということです。

 しかし、上記2つの実験からわかることは、“他人の評価や承認”とういうのも金銭的価値と同様にヒトを動かすエンジンになりうるということです。むしろ、本来この2つのエンジンで回るべき社会が、片方(数字では表せない社会的承認)が軽視されているために、齟齬が起きているのかもしれません。実際、最も市場原理社会モデルが発達している米国では、人々はプライベート環境での問題が多発しています(犯罪率や50%を超える離婚率)。

 「いいね!」のFacebookやyahoo知恵袋などの最近の人気は、人々が本来的に持っているカネ以外のもう一つのエンジン、「社会から評価されたい」という欲求を如実に表しているのではないでしょうか。

【書評】つながる脳 藤井直敬 (その1)

 この本はMIT出身で、現在理化学研究所の脳科学者である藤井直敬氏が、「脳と社会性」について考察した本です。藤井氏は、なぜITは他の科学技術と異なり短期間で私たちの世界を劇的に変える事ができたのか、という疑問に対して、「ITがコミュニケーションの根幹に影響を与えるものであったから」と考えます。

 それに対して脳科学はそれまで実験室や論文の中だけの学問でした。また、さまざまな技術的、学問的な壁が存在し、発達が停滞していました。そんな中、藤井氏は脳科学を社会に対してつなげようと、「ヒトが持つ社会性」という切り口で研究を始めました。その概要が書かれたのがこの本です。以下、参考になった部分を取り上げていきます。


社会性に必要なのは「協調性」ではない

 藤井氏はこの本の中で、上下関係を持たない初対面の2体のサルを対面させ、社会性が形成されていく過程を観察した実験を行いました。そこで得られたことは、社会性の基本は「抑制」にあるということです。一度えさを争って、負けたサルはそれ以後“下位”である事を受け入れ、自分の情動的な行動を「抑制」し、相手(上位のサル)との関係性を保持し続けます。

 大事な事は、お互いの社会関係をベースに(相手に応じて)自分の行動を選択したということです。もっと分かりやすい言い方をすると、「強い」サルから「弱い」サルに以降した際、行動の「抑制」という機能が発現されるということです。

 一般的に社会性=協調性と考えられていますが、実際さまざまな実験から、サルやチンパンジーは他人同士の協調行動を取らない事が明らかになっています。それが出来るのはヒトだけです。つまり、「抑制」は進化的に見ても「協調性」より先に存在した社会的機能と言う事ができます。

余裕がないと社会性は生まれない

 この本の中で藤井氏は、社会性が生じるための基本には「余裕」が必要なのではないかと述べています。余裕とは、社会性によって、抑制を自分にかけても、自分自身に大きな損害が出ないことを指します。

 たとえば、誰でも、ものすごくお腹が減っているときや喉が渇いているときは、例えばお店の行列に我慢して並ぼうとは思わないですし、その程度が甚だしければ、抑制はとれてしまいます。抑制がとれた場合、皆自分の欲求を満たそうとして社会は混乱します。したがって、一定の「余裕」も社会性の基本と言えます。

 ここまでは“脳科学的に見た”社会性の基本を述べました。藤井氏はこれらをふまえて、人間の社会に関しても考察しています。これについては次回取り上げたいと思います。





2013年10月13日日曜日

【書評】伝え方が9割 佐々木圭一氏(コピーライター )




 「9割は言い過ぎでは・・」と思って読んだのですが、「伝え方が9割5部」でもおかしくないくらい、“伝える技術”の重要性について腑に落ちる本でした。

世の中には、なぜか、心に“刺さる”言葉があります。

例えば・・
「考えるな、感じろ」燃えよドラゴン
「死ぬことに意味を持つな。生きるんだ!」3年B組金八先生
「ちっちゃな本が、でかいこと言うじゃないか」講談社文庫広告
「別れることがなければ、めぐり会うこともない」西洋のことわざ
「マフィアが少年聖歌隊に見るほどの巨悪組織」ピーター・セラーズ(ピンクパンサー)
「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!!」踊る大捜査線

 こういった人の心を動かすコトバについて、どんなテクニックが使われているのか、そして日々の生活や仕事で役立てるためにはどう使えばよいのか、について丁寧に解説されています。

少し本の内容に触れてみましょう。

 先に挙げた6つのコトバ(太字)をもう一度読んでみて下さい。一見、全く違います。単語はひとつも同じではありません。
しかし、この本の中で佐々木氏は以下のような“構造”に着目します。

「考える⇄感じる」
「死ぬ⇄生きる」
「ちっちゃな⇄でかい」
「別れる⇄めぐり合う」
「マフィア⇄少年聖歌隊」
「会議室⇄現場」

 別に「事件は現場で起きているんだ!!」だけでも伝わるのに、なぜか正反対の「会議室」を並べている。。この“比較対象”があることによって、コトバは不思議と私たちの心をグッとつかみます。佐々木氏はこれを「ギャップ法」を名付けています。

有名どころで言えば、他にも以下のコトバが「ギャップ法」を使った例になります。

  • 「No.1にならなくてもいい もともと特別なOnly one」世界に一つだけの花
  • 「お前の為にチームがあるんじゃねぇ!チームの為にお前がいるんだ!!」『SLAM DUNK』安西先生
  • 「高く、堅い壁と、それに当って砕ける卵があれば、私は常に卵の側に立つ」村上春樹(エルサレム賞受賞スピーチ)


 では、日常生活で使うための練習をしてみましょう。以下の言葉をより“心に刺さる”コトバにするにはどうすればよいでしょうか。

①あなたが好き。
②これは、あなたの勝利だ。
③私は味方です。
④ここのラーメンはうまい。

 答えは以下になります。ポイントは、伝えたい事の前に正反対のワード(青字)を入れる事です。

嫌いになりたいのに、あなたが好き
②これは私の勝利ではない。あなたの勝利だ。
③誰もがになっても、私は味方です。
④他の店がまずく感じるほど、ここのラーメンはうまい

 いかがでしょうか?伝えたい事の前にギャップを追加するだけで、伝わる重さが違いませんか?

 この「ギャップ法」は本の一例です。その他にもページをめくるごとに"目からウロコ"的な発見があるので、ぜひご一読されることをお勧めします。

amazonへのリンクは以下↓





2013年10月12日土曜日

コンビニから読み解く"健康意識"と"少子高齢化"  健康志向コンビニ 全国に ローソン、5年で3000店展開

 コンビニエンスストア大手の2013年3~8月期連結決算が8日に出そろい、セブン―イレブン・ジャパンが収益力で他社を引き離す構図が鮮明になった。
 同日ローソンは健康をテーマに品ぞろえや店舗開発を進める新たな事業計画を発表。ファミリーマートはドラッグストアなどと一体化した店舗の強化を打ち出す。出店規模だけでない独自の店舗戦略でセブンを追撃する。



あらすじ(Why?)


 コンビニ業界のマーケティングに新しい動きが見られる。キーワードは「健康」のようだ。
 ローソンは新たな事業計画として、健康に配慮した商品をそろえる「ナチュラルローソン」を、今後5年間で3千店に増やす方針を発表した。5年後には全店の2~3割を占める見通しである。
 首位を独走するセブン―イレブン・ジャパンも栄養バランスを考慮した弁当の宅配を本格化し、さらに、ファミリーマートも調剤薬局との融合店の展開を始めている。



背景1:少子高齢化

 この「健康志向」の背景には、第一に"少子高齢化"が挙げられるだろう。現在日本の平均寿命は女性が86.41歳(世界1位)、男性が79.94歳(世界5位)である。これには医療の発達に加え、日本人の健康的な生活が起因している。また、仕事を引退した後の"セカンドライフ"を健康で充実したものにしたい・長生きしたいという意識も一昔前よりはるかに浸透している。
 若者人口が減少する中、コンビニ業界のマーケティングのターゲットは人口が多く、お金ももっている(であろう)シニア世代にシフトしつつある。そのマーケティングの切り口が、"健康"というわけだ。


図1 高齢化の推移と将来の人口推計
        (出典) 平成24年版 高齢社会白書



 なお、"健康"というキーワードはシニア層に向けてだけではない。女性に向けたワードでもある。少子高齢化による労働人口の減少を一つの原因として、女性の社会進出が促されている。これに伴い女性の所得・消費も増加する。加えて、「仕事もプライベートも充実させる」という"ワークライフバランス"という意識の浸透も"健康志向"を促進させているように筆者には思える。


背景2:予防重視の医療への変化

 近年、国の医療政策は「治療」を重視した政策(費用負担が中心)から、「予防」重視の政策に転換しつつある。例えば、生活習慣病や喫煙、食生活に対する啓蒙活動の強化が挙げられる(都道府県レベルで目標数値も設定している模様)。因みに"メタボリックシンドローム"という概念を導入したことも、この一環である。
 また、定期的な健康診断の義務づけなども「予防型」医療政策の重要なパートを占めている。

参考:厚生労働省  平成18年度医療制度改革関連資料 
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/taikou03.html

 このように、現在国家レベルでの"健康"への意識改革が進行しつつあるのだ。最近喫煙者に加え、会社での喫煙スペースも減少しつつあるのは、国としての健康推進運動(喫煙の危険性に関する教育を含む)が少なからず作用しているのだろう。


(背景2の背景)

 このような、「治療」から「予防」への政策転換は、(個人的には賛成だが)必ずしも"国民の健康"を願う政府の気持ちが発端ではないであろう。おそらくキーファクターは「社会保障費の増大」である。
 
 日本の社会保障費は平成2年度の決算ベースで11兆5千億円(政策経費の29・4%)だったものが、25年度予算では約29兆1千億円まで拡大。これは、政策経費の54%を占める程の数字である。高齢化がこの先さらに進む中、治療費保証の低減はさけられない。そのため、できるだけ「治療」自体を減らすという意味で「予防」に注力するというわけだ。


同じ背景を持つ関連ニュース↓

日本経済新聞(10月9日)介護費用 総額に上限 軽度対象、15年度から 厚労省案、10年後に2000億円抑制
http://www.nikkei.com/article/DGXNZO60949050R11C13A0MM8000/
産経ニュース(8月8日)官邸主導で「社会保障費」抑制 諮問会議で検討、27年度予算から実施へ
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130808/plc13080811300010-n2.htm


背景3:食品等のクオリティの飽和

 健康志向の背景にはもう一つ、食品全体のクオリティの向上が挙げられる。日本では、どれを(どの店で)購入しても最低限の味は担保されているので、差別化が難しく価格競争になってしまう。それの状態から脱するため、「味」や「価格」という切り口に加え、「健康(品質)」という新たな軸が食品業界に導入されたと思われる。
 
 この差別化方法は強力である。なぜなら、例えば「シチリア産のレモンを"使っている"」ならその商品の立ち位置が"使ってない"商品より少し上がるだけに過ぎない。しかし、「食品添加物を"使ってない"」ことを謳われると、それ以外のライバル商品は全て食品添加物を"使って"おり、"体に良くない"食べ物と聞こえてしまうからである。

 今やコンビニにおにぎりでもコーラでも、"保存料不使用"が当たり前になっている。我々を取り巻くこれらの表記が人々の意識に及ぼす影響は決して少なくないだろう。


ニュース詳細↓


日本経済新聞(10月9日)セブン快走、2社追撃 コンビニ3~8月は収益格差広がる
http://www.nikkei.com/markets/kigyo/gyoseki.aspx?g=DGXNASGD0804Y_08102013TJ0000

日本経済新聞(10月6日)健康志向コンビニ 全国に ローソン、5年で3000店展開 
http://www.nikkei.com/article/DGKDASGF0408J_V01C13A0MM8000/



同じ背景を持つ関連ニュース↓

日本経済新聞(10月5日)食品大手「1人前」競う シニア・単身に照準 味の素、鍋用調味料を増産 伊藤園はティーバッグ拡充 
http://www.nikkei.com/article/DGKDASDD040OR_U3A001C1TJ0000/
産経ニュース(10月9日)小さいサイズのプチ家電が人気 おひとり様からシニア層まで
http://sankei.jp.msn.com/life/news/131009/trd13100907300002-n1.htm



このニュースが意味するもの(So What?)


 人々の、特にシニア層の"健康志向"が浸透しているのだとすれば、今後はコンビニを含めた食品業界だけでなく、フィットネスクラブ等にもシニア層をターゲットとした動きが広がっていくだろう。

 図2に示すように、シニア層は人数が多いだけでなく、資産も他の世代よりも抜きん出ている。今回取り上げた「健康」というキーワードはシニアマーケティングの一つの切り口でしかない。現在多くの会社がシニア向けに旅行・学習・資産運用などのビジネスを開拓しており、"いかに高齢者にお金を使ってもらうか"を競い合っている。今後ますます拡大していくシニア向けビジネスから目が離せない。


図2 男女,年齢階級別1世帯当たり家計資産(単身世帯)-平成21年-




        (出典)平成21年度 全国消費実態調査

バイオマス発電とkindleの意外な関係 製紙 電力小売りに商機 王子、300億円かけ専用発電所 自由化にらむ

 製紙会社が発電事業を拡大する動きが活発になっている。王子ホールディングスは、2015年度までに約300億円を投じ、売電専用のバイオマス・水力発電設備を新増設する。日本製紙も、火力発電所を2~3カ所新設し、計40万キロワット程度の発電能力を確保する見込みだ。

あらすじ(Why?)


背景1:電力システム改革
 王子製紙や日本製紙が発電事業に参入するにあたりにらんでるのが、2015年から始まる電力システム改革である。
電力システム改革の主な内容は以下の2つである。

①電力の小売り自由化
②発送電分離
(これらに加え、①と②による新たな送配電網を中立的に管理する広域系統運用機関を設立する)

①は簡単に言えば、国民に対し「自分たちがどの会社から電力を買うか」を選べるようにすることである(選ぶ例として、例えば"ともかく料金が安い会社"や"再生可能エネルギーの電気を作っている会社"等)。

 現在は、電力供給を行うことの出来る会社は東京電力や中部電力を始めとする一般電気事業者など一部に限られる(特定規模電気事業や特定電気事業者などもあるが、ここでは詳しく説明しない)。要するに寡占市場というわけだ。これを、「どの会社でも発電すれば誰にでも電力を売れるようにする」のが電力の小売り自由化である。

②は電力供給を、発電・送配電・小売りという事業類型に分けることだ(それぞれのライセンスを作る)。現在は発電して人々に電力を届けるまでを、上記一般電気事業者等の発電事業者が一貫して行っている。この改革により、発電だけする会社や、送電しかしない会社一般家庭に電力販売のみ行う会社が新たに生まれることになる(もちろん全部行ってもよい)。

 本稿のニュースに関係があるのは、①の電力の小売り自由化の方である。現在、化石燃料価格の高騰や原発停止により、電気料金が上がっていることは周知の通りである。製紙会社などは工場内で大規模に自家発電(生産過程の副産物を利用したバイオマス発電等)を行っている。現在王子製紙は電力会社に売電しているが、①の改革により一般家庭に(より安価な)電力を供給することができれば、発電収益の拡大が見込まれる。

背景2:紙の需要低迷
 製紙会社が発電事業に乗り出すのは、本業である紙の販売が低迷していることも無関係ではないだろう。以下のグラフに見られるように、2008年のリーマンショック以来、紙の生産量は減少しており、回復することなく横ばいが続いている。不景気に伴う需要低迷に加え、昨年までは円高による輸入紙の増加にも影響を受けていた。このような中、生産量縮小により、国内の工場の発電設備の稼働率が低下している。それをうまく「電気を売るため」に活用しようというわけだ。


図 日本における紙の生産量の推移

       (出典)日本製紙連合会

背景3:電子書籍の台頭
 紙の需要低迷には景気や円高の影響に加え、電子書籍(およびタブレット)の存在が少なからず影響を及ぼしていることは否定できないだろう。社内の会議で紙による配布資料をやめ、iPadを用いる会社も増えている。電子書籍やタブレット端末の存在感が日に日に増していることに対し、製紙業界は一定の懸念を抱いていると思われる。


ニュース詳細↓

日本経済新聞(10月12日) 製紙 電力小売りに商機 王子、300億円かけ専用発電所 自由化にらむ 
http://www.nikkei.com/article/DGKDASDD11061_R11C13A0EA1000/


同じ背景を持つ関連ニュース↓

日本経済新聞(8月20日)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD190PC_Z10C13A8MM8000/




このニュースが意味するもの(So What?)

 電力システム改革、つまり電気事業の自由化の進展をにらみ、異業種から電気事業に参入する動きは製紙業に限らず活発化している。上記記事によると年内にも100社を突破するとしている。

 安倍政権は、輸出産業が海外での競争力取り戻すため、円高の是正を実行した。これによる発電用の燃料価格(輸入品の価格)の増加、つまり電力価格の増加は必然であったと言える。さらに、固定価格買取制度などによる再生可能エネルギーの導入促進も電力価格を引き上げに大きく作用している。政府には、電気事業の自由化により様々な企業の市場参入・競争を促すことで、日本の電力価格を下げるという目論みがあると思われる。

 また、同じ"電気に係るコストを抑える"軸で考えると、電気を使う量を少なくする"省エネ"への政府の取り組み、そのような(節電等の)サービスを行う企業の動きも活発化していくだろう。