2013年10月12日土曜日

コンビニから読み解く"健康意識"と"少子高齢化"  健康志向コンビニ 全国に ローソン、5年で3000店展開

 コンビニエンスストア大手の2013年3~8月期連結決算が8日に出そろい、セブン―イレブン・ジャパンが収益力で他社を引き離す構図が鮮明になった。
 同日ローソンは健康をテーマに品ぞろえや店舗開発を進める新たな事業計画を発表。ファミリーマートはドラッグストアなどと一体化した店舗の強化を打ち出す。出店規模だけでない独自の店舗戦略でセブンを追撃する。



あらすじ(Why?)


 コンビニ業界のマーケティングに新しい動きが見られる。キーワードは「健康」のようだ。
 ローソンは新たな事業計画として、健康に配慮した商品をそろえる「ナチュラルローソン」を、今後5年間で3千店に増やす方針を発表した。5年後には全店の2~3割を占める見通しである。
 首位を独走するセブン―イレブン・ジャパンも栄養バランスを考慮した弁当の宅配を本格化し、さらに、ファミリーマートも調剤薬局との融合店の展開を始めている。



背景1:少子高齢化

 この「健康志向」の背景には、第一に"少子高齢化"が挙げられるだろう。現在日本の平均寿命は女性が86.41歳(世界1位)、男性が79.94歳(世界5位)である。これには医療の発達に加え、日本人の健康的な生活が起因している。また、仕事を引退した後の"セカンドライフ"を健康で充実したものにしたい・長生きしたいという意識も一昔前よりはるかに浸透している。
 若者人口が減少する中、コンビニ業界のマーケティングのターゲットは人口が多く、お金ももっている(であろう)シニア世代にシフトしつつある。そのマーケティングの切り口が、"健康"というわけだ。


図1 高齢化の推移と将来の人口推計
        (出典) 平成24年版 高齢社会白書



 なお、"健康"というキーワードはシニア層に向けてだけではない。女性に向けたワードでもある。少子高齢化による労働人口の減少を一つの原因として、女性の社会進出が促されている。これに伴い女性の所得・消費も増加する。加えて、「仕事もプライベートも充実させる」という"ワークライフバランス"という意識の浸透も"健康志向"を促進させているように筆者には思える。


背景2:予防重視の医療への変化

 近年、国の医療政策は「治療」を重視した政策(費用負担が中心)から、「予防」重視の政策に転換しつつある。例えば、生活習慣病や喫煙、食生活に対する啓蒙活動の強化が挙げられる(都道府県レベルで目標数値も設定している模様)。因みに"メタボリックシンドローム"という概念を導入したことも、この一環である。
 また、定期的な健康診断の義務づけなども「予防型」医療政策の重要なパートを占めている。

参考:厚生労働省  平成18年度医療制度改革関連資料 
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/taikou03.html

 このように、現在国家レベルでの"健康"への意識改革が進行しつつあるのだ。最近喫煙者に加え、会社での喫煙スペースも減少しつつあるのは、国としての健康推進運動(喫煙の危険性に関する教育を含む)が少なからず作用しているのだろう。


(背景2の背景)

 このような、「治療」から「予防」への政策転換は、(個人的には賛成だが)必ずしも"国民の健康"を願う政府の気持ちが発端ではないであろう。おそらくキーファクターは「社会保障費の増大」である。
 
 日本の社会保障費は平成2年度の決算ベースで11兆5千億円(政策経費の29・4%)だったものが、25年度予算では約29兆1千億円まで拡大。これは、政策経費の54%を占める程の数字である。高齢化がこの先さらに進む中、治療費保証の低減はさけられない。そのため、できるだけ「治療」自体を減らすという意味で「予防」に注力するというわけだ。


同じ背景を持つ関連ニュース↓

日本経済新聞(10月9日)介護費用 総額に上限 軽度対象、15年度から 厚労省案、10年後に2000億円抑制
http://www.nikkei.com/article/DGXNZO60949050R11C13A0MM8000/
産経ニュース(8月8日)官邸主導で「社会保障費」抑制 諮問会議で検討、27年度予算から実施へ
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130808/plc13080811300010-n2.htm


背景3:食品等のクオリティの飽和

 健康志向の背景にはもう一つ、食品全体のクオリティの向上が挙げられる。日本では、どれを(どの店で)購入しても最低限の味は担保されているので、差別化が難しく価格競争になってしまう。それの状態から脱するため、「味」や「価格」という切り口に加え、「健康(品質)」という新たな軸が食品業界に導入されたと思われる。
 
 この差別化方法は強力である。なぜなら、例えば「シチリア産のレモンを"使っている"」ならその商品の立ち位置が"使ってない"商品より少し上がるだけに過ぎない。しかし、「食品添加物を"使ってない"」ことを謳われると、それ以外のライバル商品は全て食品添加物を"使って"おり、"体に良くない"食べ物と聞こえてしまうからである。

 今やコンビニにおにぎりでもコーラでも、"保存料不使用"が当たり前になっている。我々を取り巻くこれらの表記が人々の意識に及ぼす影響は決して少なくないだろう。


ニュース詳細↓


日本経済新聞(10月9日)セブン快走、2社追撃 コンビニ3~8月は収益格差広がる
http://www.nikkei.com/markets/kigyo/gyoseki.aspx?g=DGXNASGD0804Y_08102013TJ0000

日本経済新聞(10月6日)健康志向コンビニ 全国に ローソン、5年で3000店展開 
http://www.nikkei.com/article/DGKDASGF0408J_V01C13A0MM8000/



同じ背景を持つ関連ニュース↓

日本経済新聞(10月5日)食品大手「1人前」競う シニア・単身に照準 味の素、鍋用調味料を増産 伊藤園はティーバッグ拡充 
http://www.nikkei.com/article/DGKDASDD040OR_U3A001C1TJ0000/
産経ニュース(10月9日)小さいサイズのプチ家電が人気 おひとり様からシニア層まで
http://sankei.jp.msn.com/life/news/131009/trd13100907300002-n1.htm



このニュースが意味するもの(So What?)


 人々の、特にシニア層の"健康志向"が浸透しているのだとすれば、今後はコンビニを含めた食品業界だけでなく、フィットネスクラブ等にもシニア層をターゲットとした動きが広がっていくだろう。

 図2に示すように、シニア層は人数が多いだけでなく、資産も他の世代よりも抜きん出ている。今回取り上げた「健康」というキーワードはシニアマーケティングの一つの切り口でしかない。現在多くの会社がシニア向けに旅行・学習・資産運用などのビジネスを開拓しており、"いかに高齢者にお金を使ってもらうか"を競い合っている。今後ますます拡大していくシニア向けビジネスから目が離せない。


図2 男女,年齢階級別1世帯当たり家計資産(単身世帯)-平成21年-




        (出典)平成21年度 全国消費実態調査

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