2013年10月12日土曜日

バイオマス発電とkindleの意外な関係 製紙 電力小売りに商機 王子、300億円かけ専用発電所 自由化にらむ

 製紙会社が発電事業を拡大する動きが活発になっている。王子ホールディングスは、2015年度までに約300億円を投じ、売電専用のバイオマス・水力発電設備を新増設する。日本製紙も、火力発電所を2~3カ所新設し、計40万キロワット程度の発電能力を確保する見込みだ。

あらすじ(Why?)


背景1:電力システム改革
 王子製紙や日本製紙が発電事業に参入するにあたりにらんでるのが、2015年から始まる電力システム改革である。
電力システム改革の主な内容は以下の2つである。

①電力の小売り自由化
②発送電分離
(これらに加え、①と②による新たな送配電網を中立的に管理する広域系統運用機関を設立する)

①は簡単に言えば、国民に対し「自分たちがどの会社から電力を買うか」を選べるようにすることである(選ぶ例として、例えば"ともかく料金が安い会社"や"再生可能エネルギーの電気を作っている会社"等)。

 現在は、電力供給を行うことの出来る会社は東京電力や中部電力を始めとする一般電気事業者など一部に限られる(特定規模電気事業や特定電気事業者などもあるが、ここでは詳しく説明しない)。要するに寡占市場というわけだ。これを、「どの会社でも発電すれば誰にでも電力を売れるようにする」のが電力の小売り自由化である。

②は電力供給を、発電・送配電・小売りという事業類型に分けることだ(それぞれのライセンスを作る)。現在は発電して人々に電力を届けるまでを、上記一般電気事業者等の発電事業者が一貫して行っている。この改革により、発電だけする会社や、送電しかしない会社一般家庭に電力販売のみ行う会社が新たに生まれることになる(もちろん全部行ってもよい)。

 本稿のニュースに関係があるのは、①の電力の小売り自由化の方である。現在、化石燃料価格の高騰や原発停止により、電気料金が上がっていることは周知の通りである。製紙会社などは工場内で大規模に自家発電(生産過程の副産物を利用したバイオマス発電等)を行っている。現在王子製紙は電力会社に売電しているが、①の改革により一般家庭に(より安価な)電力を供給することができれば、発電収益の拡大が見込まれる。

背景2:紙の需要低迷
 製紙会社が発電事業に乗り出すのは、本業である紙の販売が低迷していることも無関係ではないだろう。以下のグラフに見られるように、2008年のリーマンショック以来、紙の生産量は減少しており、回復することなく横ばいが続いている。不景気に伴う需要低迷に加え、昨年までは円高による輸入紙の増加にも影響を受けていた。このような中、生産量縮小により、国内の工場の発電設備の稼働率が低下している。それをうまく「電気を売るため」に活用しようというわけだ。


図 日本における紙の生産量の推移

       (出典)日本製紙連合会

背景3:電子書籍の台頭
 紙の需要低迷には景気や円高の影響に加え、電子書籍(およびタブレット)の存在が少なからず影響を及ぼしていることは否定できないだろう。社内の会議で紙による配布資料をやめ、iPadを用いる会社も増えている。電子書籍やタブレット端末の存在感が日に日に増していることに対し、製紙業界は一定の懸念を抱いていると思われる。


ニュース詳細↓

日本経済新聞(10月12日) 製紙 電力小売りに商機 王子、300億円かけ専用発電所 自由化にらむ 
http://www.nikkei.com/article/DGKDASDD11061_R11C13A0EA1000/


同じ背景を持つ関連ニュース↓

日本経済新聞(8月20日)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD190PC_Z10C13A8MM8000/




このニュースが意味するもの(So What?)

 電力システム改革、つまり電気事業の自由化の進展をにらみ、異業種から電気事業に参入する動きは製紙業に限らず活発化している。上記記事によると年内にも100社を突破するとしている。

 安倍政権は、輸出産業が海外での競争力取り戻すため、円高の是正を実行した。これによる発電用の燃料価格(輸入品の価格)の増加、つまり電力価格の増加は必然であったと言える。さらに、固定価格買取制度などによる再生可能エネルギーの導入促進も電力価格を引き上げに大きく作用している。政府には、電気事業の自由化により様々な企業の市場参入・競争を促すことで、日本の電力価格を下げるという目論みがあると思われる。

 また、同じ"電気に係るコストを抑える"軸で考えると、電気を使う量を少なくする"省エネ"への政府の取り組み、そのような(節電等の)サービスを行う企業の動きも活発化していくだろう。



1 件のコメント:

  1. 今朝の新聞で、なんで製紙会社が電力に手を出すんだろうと気になっていたんですが、この記事読んで腑に落ちました! 直明

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