2013年10月19日土曜日

【書評】つながる脳 藤井直敬 (その2)


 突然ですが質問です。「あなたにこれから1000円を渡します。この1000円のうち、いくらでも良いので隣りの部屋にいる人に分け与えて下さい。残りはあなたの報酬になります。」と言われたら、あなたはどうしますか?いくらの金額を払いますか?

 これは脳化学では有名な実験です。よく考えれば分かる通り、これは相手からのレスポンスがないために非常に単純に見えますし、合理的に考えるなら、1円だって払う理由はありません。

 しかし、実際は実験の参加者は平均20%前後の金額(200円)を隣りの部屋の見ず知らずの人に支払います。支払うメリットは明らかにないのに、それでもゲームの参加者はいくらか支払ってしまうのです。

20%の希望

 一般にこの実験の結果は、実験での行動選択が自分の評判に影響を及ぼすことを心配しての結果と解釈されています。つまり、たとえ明確な他社がそこにいなくても、社会の中の自分に体する評判を保つという目的のためには、自分の分け前のうち2割程度のコストを払うことは価値があると思っているという事です。

 これは人の不合理な部分を説明する際に引用される事が多いのですが、逆の意味で、ヒトが他者との関係性を保つためのコストを支払う準備があることを示しています(2割というのは結構な割合です)。藤井氏は、ヒトが関係性維持の為に積極的に支払っても良いとする、この2割のリソースをうまくつかうことで、何らかの社会の仕組みができるのではないか、と述べています。

カネとホメ

 もう一つ興味深い実験が示されています。生理学研究所の定藤氏のグループで行ったfMRIの実験では、報酬として金銭(100円〜400円前後)を得られる課題社会報酬(ホメ)を得られる課題の2つを行い、“カネ”と“ホメ”それぞれの報酬を得た際の脳の動きを観察します。
 
 結果は驚く事に、金銭課題と社会的課題で活発化した脳の部分は全く同じ場所(基底核の線条体)だったのです。そして活動の強さは、誉められる課題の場合の方が金銭課題よりも大きいという結果でした。
 
 この実験が示しているのは、われわれの行動の動機づけとなっているカネの影響と、社会的な報酬(ホメ)の間には、共通の神経メカニズムが働いているということです。


この本のSo What ?

 現在私たちは、経済学でいう“合理的な経済人”つまり、金銭的な自己利益の最大化を図る個体モデルをベースにした資本主義社会に生きています。つまり、行動の動機・インセンティブはカネということです。

 しかし、上記2つの実験からわかることは、“他人の評価や承認”とういうのも金銭的価値と同様にヒトを動かすエンジンになりうるということです。むしろ、本来この2つのエンジンで回るべき社会が、片方(数字では表せない社会的承認)が軽視されているために、齟齬が起きているのかもしれません。実際、最も市場原理社会モデルが発達している米国では、人々はプライベート環境での問題が多発しています(犯罪率や50%を超える離婚率)。

 「いいね!」のFacebookやyahoo知恵袋などの最近の人気は、人々が本来的に持っているカネ以外のもう一つのエンジン、「社会から評価されたい」という欲求を如実に表しているのではないでしょうか。

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