2013年8月25日日曜日

日銀緩和 融資波及鈍く 預金、貸し出しに回らず 6月、銀行の預貸率最低



あらすじ(Why?)


 バブル崩壊以降、日本経済はデフレ時代に突入し、経済的にも政治的にもは低迷状態が続いている。
 しかし、昨年末に始まった安倍政権によって、「失われた20年」を過ごしてきた日本経済は少し改善の兆候を見せている(ように見える)。実際どうなのだろうか。もう一度アベノミクスを復習してみよう。

 アベノミクスは、下記の3つを基本方針としており、安倍はそれを「三本の矢」と表現している


①金融政策
    • 無制限の量的緩和=日銀が円を大量に供給し、円の値段を無理矢理下げる政策 等
②財政政策
    • 大規模な公共投資=古くなった橋や道路や建物を直したり、新しく作ったりして政府が無理矢理民間企業の仕事を増やし、お金を循環させる
      • 政策として珍しくはないが、今回は投資額が10兆円と非常に大きい 
③成長戦略(民間投資を喚起する政策
    • 健康、エネルギー、次世代インフラ、農林水産業の4分野に重点を置き、企業の競争力向上、技術革新を後押しする政策
    • 規制緩和の加速
    • 若者や女性の雇用支援(労働力強化) 等
 
 これらの「三本の矢」の目的は何かというと、デフレを脱却することだ。つまり、「将来の不安から家計の消費が停滞し(モノが売れなくなり)、企業が供給過多を避けるため価格を下げ続ける(利益が縮小し続ける)→給料が下がる」という不景気のスパイラルを脱却するということ。

 まず①の金融政策について。黒田日銀総裁の異次元量的緩和政策により、長年日本の輸出産業を苦しめていた円高は緩和され、野田首相(当時)の衆院解散時点で70円第後半だった円は100円弱となった。

 次に②の財政政策。税金を使って、公共事業等を発生させることで民間企業の仕事が増えた。(この政策が全てではないが)日本市場全体の"調子の良さ"を図る指標である日経平均株価は下の図のように紆余曲折はあるが、2012年末時点で9,000円前後だったことを考えれば、順調に推移していると言うことができるだろう。

日経平均株価の推移
(引用)日本経済新聞 http://www.nikkei.com/markets/kabu/market-focus.aspx?g=DGXNMSFJ23001_23082013000000&df=3

 このように、1本目と2本目の矢については、今のところ成功を収めていると言える。では「3つ目の矢」ついてはどうだろう。ここで大事なことに触れたいのだが、3本目の矢というのは、1本目・2本目とは全く役割が異なることを忘れてはいけない。


 金融政策(1本目の矢)と財政政策(2本目の矢)というのは、「短期的な」視点であり、政府が需要不足を補うことで、需給のアンバランスを安定させ、完全雇用水準で均衡させようとする政策のことである。


 それに対し、成長戦略(3本目の矢)というのは、「長期的な」視点であり、規制緩和や新産業の育成によって、供給サイドを継続的に成長させようとする政策のことである。一つ例を挙げれば、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は、関税の撤廃により、海外との取引を長期的に促進させようとする取り組みである。




(引用)金融大学 http://www.findai.com/kouza/abenomics.html

 したがって、アベノミクスのメインディッシュは「第3の矢」、すなわち長期的に日本企業の経済を成長させることであり、第1と第2の矢はそのための前菜といっても過言ではないのだ。


ニュース詳細↓

日本経済新聞(8月16日)日銀緩和 融資波及鈍く 預金、貸し出しに回らず 6月、銀行の預貸率最低 
http://www.nikkei.com/article/DGKDASGC1501W_V10C13A8EE8000/


今週の同じ背景を持つ関連ニュース↓


日本経済新聞(8月22日)設備投資の前倒し促す 政府・与党  耐震・省エネ、減税と規制組み合わせ 消費増税にらむ 

http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130822&ng=DGKDZO58780610S3A820C1EE8000


日本経済新聞(8月17日)成長企業に融資しやすく 金融庁検査、銀行の査定尊重 
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGC1600R_W3A810C1MM8000/


このニュースが意味するもの(So What?)


 アベノミクスによって、消費者レベルでは、好景気への期待から購買意欲が向上しているようだ。実際、(購買意欲を表す指標と言われる)百貨店業界や小売り業界の売り上げは昨年に比べ向上している。


 しかし、企業レベルではまだ「好景気期待」の色は薄いということを今回のニュースは示している。銀行の融資が停滞しているということは、企業が将来の利益向上に向けた設備投資、事業投資を控えている、もしくは自分で賄える程度の投資しかしていないということを示している。それをしなければ、銀行→企業→消費者という世の中のお金は循環せず、継続的な成長は困難となる。


 今後安倍政権は、この第3の矢の強化、つまり民間のお金の循環を加速するような政策にさらに力を入れていく必要がある。


 具体的には、銀行の融資を促進する等の規制緩和の促進法人税の引き下げ等が加速するだろう。

2013年8月16日金曜日

ディズニーランド30周年の裏側にあるもの 〜日本と外資のソフト力〜



 今年ディズニーランドは30周年を迎えた。老若男女のディズニーランドファンにとっては"たまらない"年であり、30周年記念パレードを観に、何度も足を運ぶ人も少なくないようだ。

 かく言う僕も"ファン"の一人として、先日記念パレードを堪能した一人だが、本稿では少し違う角度から「30周年記念」について考察してみたい。

 まず第一に、「テーマパークや遊園地が30年間存続するということ」はどれほどすごいことなのか。実は、「30年」という年は、ビジネス界では一般的に「企業の寿命」の年数と言われている(※最近は通説ではなくなりつつあるが)。その意味で、今年寿命の年を迎えるにも関わらず衰退する気配の感じられないディズニーランドは一目置かざるを得ない。

 とはいえ、30年以上続いている遊園地自体はディズニーランド以外にも、後楽園遊園地(現東京ドームシティアトラクションズ)、富士急ハイランド、常磐ハワイアンセンター(現スパリゾートハワイアンズ)、豊島園など複数存在することは確かである。

 しかし、いずれも(日本の遊園地・テーマパーク業界全体的に)バブル崩壊以降、収益が低迷している。家計に置けるレジャー・娯楽費は、不景気になると最初に削られるため、この業界は基本的に国全体の景気を繁栄しやすいのだ。

 そんな中、ディズニーランドだけは様子が異なる。設立以来30年間、収益がずっと右肩上がりなのである。



 我が国では、1980年代=バブル期に、全国で遊園地・テーマパークの建設ラッシュが相次いだ。しかし、バブル崩壊以降、次々と姿を消していき、現在は「東のディズニーランド(ディズニーリゾート)」、「西のユニバーサルスタジオジャパン(USJ)」の2強時代と言われている。

 ここで、両社はどちらも「外資系企業」であるという事実こそが本稿のポイントである。ディズニーとUSJが現れて以降、国内企業の運営する既存の遊園地などの客が奪われ、相次いで閉鎖に追い込まれた(国内の遊園地等は大半が20歳を待たずして姿を消している)。

 外資系テーマパークが、東日本大震災をも乗り越えて好調な業績を維持し続ける秘密は何だろうか。それはひとえに彼らの戦略性にある。

 ディズニーとUSJの共通点は、その出発点が映画製作会社であるということだ。映画製作、DVD販売、テレビ放映、そしてテーマパークでのキャラクター使用という一連の流れがあって初めて、その巨額の投下資金が回収できるというまさにコンテンツビジネスであることを理解しておく必要がある。

 つまり、富士急ハイランドのFUJIYAMAに見られるようなジェットコースターの迫力(ハード力)ではなく、コンテンツ=世界観(ソフト力)が集客力の鍵を握るのだ。ただの"スリル"のような単発的な刺激は、(ストレス解消にはなっても)一年のうち何回も足を運ばせるような魅力にはなり得ない。それよりも、"夢の国(という世界観)"、つまり映画や物語の登場人物の一員になるという"非日常的な"体験こそが人気の秘訣なのであろう。

 ディズニーとUSJは、資金力と並んでこのソフト力があるからこそ、外資系テーマパークは長寿命を保てるのである。

 思えば、日本企業と外資企業のソフト力の違いが現れているのはテーマパーク産業だけではないだろう。例えば、Sonyと外資の「勝ち組企業」であるApple社を比べてみよう。

Sony 
http://www.sony.jp/tablet/solution/

Apple
http://www.apple.com/jp/ios/videos/#developers

 どちらもタブレットの映像広告であるが、趣向は正反対である。Sonyは「こんな便利な機能が搭載されている」というメッセージなのに対し、Appleは機能ではなく「タブレットが存在する世界」を我々に訴えている。

 違う言い方をすると、消費者に対し、日本企業は得てして「What?(何の機能を)」から入るのに対し、外資は「Why?(そもそもなぜそれが必要か)」というソフトな面から入り、それを実現する手段として「What?(どんな機能が必要か)」に至るというストーリー性(戦略)を有しているように思える。このことをより理解して頂くために、以下のTEDは必ず観てほしい。



 
 日本企業と外資の「ソフト力」の違いが、どのような文化的背景に由来するのかは定かではないが、ディズニーの人気や、国内のAppleユーザの拡大状況を見る限り、日本人消費者である私たちも外資のスタンス(戦略)を無意識的に好んでいることは間違いない。

 日本の景気や製造業の競争力の衰退を、新興国をはじめとする外部環境のせいにするのは容易いが、もう一度自分たちのソフトな部分(ユーザーに対するスタンスや戦略)を見つめ直す時期に来ているのかもしれない。

参考
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130721&ng=DGKDZO57563890Q3A720C1MZA000

2013年8月11日日曜日

JAの変革により日本の農業は新たなステージへ 全農、民間と共同事業 外食や配送、年100億円の出資枠

 農業協同組合(JA)の全国組織である全国農業協同組合連合会(全農)は民間企業と共同出資で農産物の加工工場や配送、レストランなどの運営に乗り出す。年間100億円の出資枠を設定し、食品や物流企業などと資本・業務提携する。

あらすじ(Why?)

 JAは、農家が作った農産物を引き取り、流通させる役割を持つ組織。その他の役割として、農産物の生産に必要な原材料を共同で購入したり、まとめて販売したりする(兼業農家にとってはこのような一括サービスは非常にありがたい)。さまざまな農作物で高いシェアをもち、特にコメでは全流通量の4割以上がJAを介した販売となっている。

 要するに、JAがいれば、農家は農作物を作っているだけでよく、流通・販売等のビジネスを行う必要がないのだ。

 戦後はほぼ全ての農家がJAに会員として加入していた時期もあったほどだが、最近どんどん会員数が減少している。代表的な理由として、①ワタミのように生産から流通・消費まで一貫した事業を行う大規模な農業法人などが現れたこと、②農家の高齢化などにより、農家人口が減少しつつあることが挙げられる。

 そしてJAにとって最も恐ろしいのがTPPの影響である。安倍政権はTPP参加に伴って、「強い農業」を作るために農地の集約と大規模化を進めると宣言している。個人農家を「お得意様」としてきたJAにとって、農業の大規模化と集約化は顧客の大幅な減少を意味し、致命的なダメージを与えかねない。

 農家という常連客が減ることにより、金融業(JA共済)を始め、農業と関係ない生活サービス業の売り上げも大きく減ってしまう。したがって、新たな顧客(農家ではなく、一般消費者や一般企業)を求め、今回民間企業と共に、レストラン経営や物流業等に進出するというわけだ。JAが民間企業との連携を深めれば、農家としても販売先の拡大につながり、また付加価値の高い加工工程に参加したりしやすくなるため、メリットが大きい。
 

ニュース詳細↓

日本経済新聞(8月9日)全農、民間と共同事業 外食や配送、年100億円の出資枠 
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130809&ng=DGKDZO58294900Z00C13A8EA2000


このニュースが意味するもの(So What?)


 JAは依然としてTPPへの反対姿勢を維持しているが、7月の参議院選挙で自民党が大勝した時点で、既に農業自由化への潮流が止められないものであることを認識しているのだろう。今後JAは、新規分野への展開速度をさらに加速させると思われる。それは、JA内部からではなく、国からもプレッシャーがかけられているからだ。

日本経済新聞(8月9日)菅官房長官「農協、役割見直しも」 政府会合で注文 麻生氏も同調
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130809&ng=DGKDASFS0805K_Y3A800C1EA2000


 この記事にあるように、政府としては、農家自身に(海外への輸出を始め)自分で稼げる力を付けてほしいため、JAに対し農作物流通システムの抜本的な改革を求めている。具体的にはもっと海外ルートを開拓せよということである。

 したがって、今後は「グローバル市場への展開」という言葉が日本の農業分野において、1つのキーワードになっていくことは間違いない。





2013年8月10日土曜日

水素社会が一歩前へ  燃料電池車の規制緩和 水素スタンド設置費3割減

あらすじ(Why?)

 最近、特に震災以降になって「水素エネルギー」なるニュースをよく目にするようになった。国(主に経済産業省)が、原発に変わるエネルギーの重要な選択肢の一つとして強く推進しているのだ。
現段階では水素エネルギーの使い道は、ほぼ燃料電池自動車(FCV)としてである。FCVは水素を燃焼させるため、水しか発生しないという低公害車の1つ。)

 実は日本において「水素社会を作ろう」という潮流(Stream)は今回が初めてではない。技術開発自体はオイルショック以降、国を挙げて30年以上にわたり進められてきたし、実際2000年代初頭にも今回のような水素社会を目指した動きがあった(詳細は割愛するが、WE-NETプロジェクトやJHFCプロジェクト等)。

 ただ、「石油が枯渇する」と言われ続けながらも、石油を始めとする化石燃料の価格は社会のスキームを変えるほど変化しなかった。残念なことに、石油やガスによる発電コストや自動車の値段は、水素のそれとは数10〜100倍のレベルで違った。加えて、日本が21世紀になって新エネ・再エネよりも「原発」を優先する政策に転換したため、水素ブームはいとも簡単に消滅していった。

 しかし今回(つまり震災以降の水素ブーム)は前回とは少しインセンティブの強さが違う。理由の1つとして、政府の"二酸化炭素削減目標に対する焦り"がある。

 未だに日本は温暖化への取り組みで世界の先頭を走っていると思われがちだが、そんなことはない。むしろ逆である。2011年末に開催された候変動枠組条 約第 17 回締約国会議(COP17)で、日本は京都議定書の第2約束期間への参加を拒否している。さらに政府は、鳩山元首相が2009年の気候変動サミットで公言し、拍手喝采を頂戴した「2020年に25%削減(1990年比)」という目標を撤回することを5月に国連に通知した。

 つまり、現在日本が国際的に掲げている温暖化目標は皆無であるということ。

 今の段階では原発が停止したから火力を使わざるを得ない、という言い訳が通用している。しかし、2年後、3年後、(米国はともかく)欧州諸国が黙っているはずがない。CO2排出量を減らす有力な選択肢の1つとして水素の普及に注力しているのだ。(他の選択しは後で述べる)

ニュース詳細↓

日本経済新聞(7月26日)燃料電池車の規制緩和 水素スタンド設置費3割減
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDF2900G_Z20C13A7MM0000/


今週の同じ背景を持つニュース↓

水素有効活用へ新たに5社参画 パナソニックなど
http://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKDASDD020OS_T00C13A8TJC000
JXエネが水素精製装置 燃料電池車向け、低炭素型に 
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD010F1_R00C13A8TJ2000/


このニュースが意味するもの(So What?)

 国がCO2削減目標を放棄したことに焦りを感じていること(筆者の推測)が事実だとすれば、今後も水素普及のための施策が増していくだろう。それだけではなく、再生可能エネルギーの普及促進(固定価格買取制度←13年7月28日のブログ記事)や、CCS(火力発電所等から発生したCO2を地下に貯蔵する方法)も加速するはずだ。


 現段階では水素ステーション(FCV向けの"ガソリンスタンド")は高圧ガス保安法をはじめ、厳しく法律で管理されており、なかなか低コストかが実現していなかった。これからも今回のような(規制緩和の)ニュースが少しずつ増えていくと思われる。
 
 さらに、水素は将来的にはFCVだけでなく、発電にも利用される可能性が十分ある(下記記事参照)。現時点で水素発電を行っている例は世界にはないが、日本がリードできる分野として、今後も目を離せない。

水素が変える日本の電力 発電の代替・補完も視野 
http://www.nikkei.com/article/DGXNZO57772170W3A720C1X21000/