2013年10月19日土曜日

【書評】つながる脳 藤井直敬 (その1)

 この本はMIT出身で、現在理化学研究所の脳科学者である藤井直敬氏が、「脳と社会性」について考察した本です。藤井氏は、なぜITは他の科学技術と異なり短期間で私たちの世界を劇的に変える事ができたのか、という疑問に対して、「ITがコミュニケーションの根幹に影響を与えるものであったから」と考えます。

 それに対して脳科学はそれまで実験室や論文の中だけの学問でした。また、さまざまな技術的、学問的な壁が存在し、発達が停滞していました。そんな中、藤井氏は脳科学を社会に対してつなげようと、「ヒトが持つ社会性」という切り口で研究を始めました。その概要が書かれたのがこの本です。以下、参考になった部分を取り上げていきます。


社会性に必要なのは「協調性」ではない

 藤井氏はこの本の中で、上下関係を持たない初対面の2体のサルを対面させ、社会性が形成されていく過程を観察した実験を行いました。そこで得られたことは、社会性の基本は「抑制」にあるということです。一度えさを争って、負けたサルはそれ以後“下位”である事を受け入れ、自分の情動的な行動を「抑制」し、相手(上位のサル)との関係性を保持し続けます。

 大事な事は、お互いの社会関係をベースに(相手に応じて)自分の行動を選択したということです。もっと分かりやすい言い方をすると、「強い」サルから「弱い」サルに以降した際、行動の「抑制」という機能が発現されるということです。

 一般的に社会性=協調性と考えられていますが、実際さまざまな実験から、サルやチンパンジーは他人同士の協調行動を取らない事が明らかになっています。それが出来るのはヒトだけです。つまり、「抑制」は進化的に見ても「協調性」より先に存在した社会的機能と言う事ができます。

余裕がないと社会性は生まれない

 この本の中で藤井氏は、社会性が生じるための基本には「余裕」が必要なのではないかと述べています。余裕とは、社会性によって、抑制を自分にかけても、自分自身に大きな損害が出ないことを指します。

 たとえば、誰でも、ものすごくお腹が減っているときや喉が渇いているときは、例えばお店の行列に我慢して並ぼうとは思わないですし、その程度が甚だしければ、抑制はとれてしまいます。抑制がとれた場合、皆自分の欲求を満たそうとして社会は混乱します。したがって、一定の「余裕」も社会性の基本と言えます。

 ここまでは“脳科学的に見た”社会性の基本を述べました。藤井氏はこれらをふまえて、人間の社会に関しても考察しています。これについては次回取り上げたいと思います。





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