2013年12月1日日曜日

日本は太陽光発電から風力と地熱の国へ   太陽光価格2割下げ 再生エネ、風力・地熱に軸足





        (出典)Wikipedia

ニュース概要

 経済産業省は固定価格買取制度(FIT制度)における、太陽光発電の買い取り価格の引き下げを視野に、再生可能エネルギーの普及策を見直す。電力会社に買い取りを義務づける価格は2015年度に1キロワット時30円と、13年度の38円から2年で2割以上も下げる案が浮上。高コストの発電が増えすぎて利用者の負担が重くなるのを抑えるとともに、風力や地熱の拡大に軸を移す。政府は電源の多様化に必要な規制緩和も進める。


このニュースの背景(Why?)

 現在、先進国・途上国を問わず、世界中で再生可能エネルギーの導入が加速している。しかし、当然と言えば当然であるが、再生可能エネルギー(例えば風力や太陽光)発電は、燃料費はかからないとはいえ、発電するためのコストが化石燃料の発電より非常に高く、普通にやったら全く採算性が合わない

 そこで必要となるのが国のサポートである。例えば、民間企業が風車を立てる際の建設コストの何割かを国が出費する補助金が代表的である。しかし、初期コストが下がっても、いざ発電して電気を買ってもらえなければ発電事業にならない(風力発電や太陽光発電は、基本的に出力の変動が大きく、電力会社はそのような電力を買いたくない)。ではどうすれば導入が進むのか。

 現在世界各国で主流となっている、極めて重要な再生可能エネルギーのインセンティブ政策は2つある。RPS制度と2012年から日本に導入されたFIT制度である。本稿ではこれらの制度の違いを説明しつつ、太陽光から風力や地熱に軸足を移そうとしている政府の動向について言及していきたい。


RPS(Renewables Portfolio Standard)制度

 RPS制度は、政府が各電力会社に対し、彼らが販売する電力量の一定割合を再生可能エネルギー等の電力で賄うことを義務づける制度のことである。我が国では、2003年から導入されている。

 この制度を一言で言うなら、導入する「量」の固定である。ちなみに、定められた量よりも多くの再エネを導入した電力会社は、目標値を達成していない他の電力会社に再エネ電力を売る事ができる。

 なお、ここでのポイントは、「太陽光」「風力」「水力」と分けずに「再生可能エネルギー」(の導入量の固定)とひとくくりにしている点である。その理由は、複数の種類の再エネ電源を電力価格 で競わせ、競争による価格低下を狙うためである。したがって、充分に市場化された複数の 技術を競争させるには適して いるが、 新技術の普及拡大には不適といえる。

 RPSの問題点は、導入する量=再エネの市場規模について、どの程度の市場規模が適切 かという判断を客観的に決めることは難しく、どうしても恣意的になってしまう点である。それは何を意味するかというと、導入量を決める国の審議会において、電気・ガス・石油など、各業界の政治力の 利害調整が大きく響いているということである。実際、日本のRPSの目標値は欧米に比べ一桁小さく、目標達成できなかった場合のペナルティも非常に小さいことからも、業界からの圧力が大きかったことが推察される。


固定価格買取制度(Feed in Tariff : FIT)

 東日本大震災後の2012年7月から、日本では固定価格買取制度が導入された。これは、民間企業でも、個人でも、再生可能エネルギーで発電した電力は、東電等の電力会社に高い価格で売る事ができる制度である(電力会社は強制的に買い取らなくてはならない)。

 この制度は(RPS制度が導入量の固定だったのに対し)再エネで発電した電力の買取価格を固定する。その価格は、RPSと異なり、再エネの種類ごと異なっている。なぜかというと、図1の通り、各再エネごと一定量の電力を生み出すのにかかるコスト(発電コスト)はバラバラだからだ。


図1 日本の再生可能エネルギーの設置コスト

(引用)自然エネルギー財団HP http://jref.or.jp/energy/wind/issues.php

 FIT制度の買取価格は、装置代とか運用コスト等から計算される上記発電コストに、利潤が生まれるような価格を上乗せして設定されている。導入量が増えれば装置価格は下がるので、買取価格も毎年見直される

 例えば、10 kW以上の太陽光の場合、2012年度は42円/kWh、2013年度は37.8円/kWhとなっている。ただし、買い取り価格42円/kWhの年に申請し認定を受ければ、発電開始時期は問わず、開始したタイミングから20年間42円/kWhで売電する事が可能となる。このように、FIT制度では、発電する事業者がもうけられるような仕組みが整えられているのである。

 こうして、様々な企業が儲けようとして再エネ発電事業を行い、国内の再エネ導入量が増えるというのが政府の狙いなのだ。その導入量は、RPSのように固定されていないので、買い取り価格次第では、ある意味導入量は青天井となる。

 特に、太陽光発電の買い取り価格は非常に高く、非住宅用についてはFIT制度前は累積0.9 GWだったのに対し、FIT制度が始まって1年に満たない2013年2月末では11 GWとなっている(認定を受けた数値であり、実際運転しているのは半分以下であるが)。現在のところ、太陽光が再生エネの導入量全体の95%を占めるという非常にアンバランスな状況が日本ではできあがっている。


図2 FIT制度前後の各再エネ導入量の比較
(参考)資源エネルギー庁HP  http://www.enecho.meti.go.jp/saiene/kaitori/kakaku.html


太陽光発電の買い取り価格を下げた背景

 このように、再エネの導入が進んだことは確かに喜ばしいことではあるが、肝心な事を忘れてはならない。それは、FIT制度で導入された再エネ電力の買い取り価格は、全て我々国民の電気料金に跳ね返ってくるという事である。

 認定を受けた設備のうち、全てが運転に至るわけではないが、仮に太陽光発電12 GWを42円×20年間買い取ると、総額7兆円~8兆円の補助金が必要となる、という試算もある。
(参考)http://chinshi.blog102.fc2.com/blog-entry-155.html

 実際、再エネが進んだドイツでもFITによる電力料金の高騰は問題となっている。2000年からFITを始めた同国は、太陽光の急拡大を受け14年の家庭の負担は年3万円近くに達する見通しらしい。また、スペインの財政危機の要因を作ったのはFIT制度による圧迫だったという報道も存在する(財政破綻後スペインはFITの廃止を宣言している)。

 日本の太陽光発電の買い取り価格は世界的に見ても高く、ドイツやスペインと同じ状況が懸念される。太陽光発電は、広く普及したと言えるため、今後は買い取り価格を抑えつつ、他のエネルギーを増やしてバランスを取ろうという話が今回のニュースである。


ニュース詳細

日本経済新聞(11月18日) 太陽光価格2割下げ  再生エネ、風力・地熱に軸足 経産省検討、家庭の負担抑制 
http://www.nikkei.com/article/DGKDASFS17015_X11C13A1MM8000/


このニュースが意味するもの(So What?)

 FIT制度が始まって以来、太陽光偏重の導入が行われ、風力等の他のエネルギーの普及が進んでいない事への批判記事をよく見かけるが、あまり的を得ていないようにも思える。確かに、太陽光の買い取り価格は他と比べても優位性があるのは事実だが、他のエネルギーの導入が1年たっても停滞しているのは、単純な話、太陽光以外のエネルギーは導入までに1年以上かかるからである。

政府の想定通りに再エネ導入は進んでいる  土地があれば、パネルを置いて完了の太陽光発電とは異なり、例えば、風力や地熱は今の制度では環境影響評価(アセスメント)等の手続きが必要で、非常に面倒である。政府は当然それを理解しているのであって、まずは太陽光の導入を進め、FIT制度の明確な実績を出しつつ、その間に水面下で風力や地熱等の規制緩和を進めるという目論みがあったのではないだろうか。





 日本では再エネ=太陽光というイメージが主流だが、それは欧米とは異なる。欧米で再エネといったら「風力」なのである。風力発電は太陽光発電と違い、夜間でも発電ができるメリットがあるのに加え、大事な事だが、発電コストが非常に低い(図1参照)。

実はあまり発電していない太陽光パネル  また、風力の設備稼働率も太陽光より遥かに高い。設備稼働率とは、「一年間のうち、定格出力で運転したのはどれくらいの割合か」を示す数値である。定格出力はkWで表されるが、これは「この装置は“1時間”にどれくらいの電力を生み出せるか」というスペックを表す。これは、陸上競技でいうならば「最高どれくらいの速度で走る力がある人か」を示す。

 しかし、仮に最高30 km/時で走れる人がいるとしても、その速度が「一瞬だけなのか、1時間ずっと30 km/時で走れるのか」は別問題である。発電事業において大事なのは、「走った距離」つまり実際の発電した量である。

 実際、太陽光の設備稼働率は12%程度であり、それは、例えば1 MWの設備規模の発電所があっても、1年間で1時間当たり1 MWhの発電ができている(能力を発揮できている)のはたった12%の時間だけということ。ちなみに、例えばガス火力発電は設備稼働率60%を超える。これでは同じ1MWの発電所だとしても、生み出す電気に大きな差がある事がわかるだろう。ちなみに、風力発電の設備稼働率は20%~30%と太陽光の倍以上である。


地熱発電所(アイスランド)


 また、地熱発電は日本は世界的に資源量が豊富で、建設コストが問題なものの、(地中の温度は変動しないので)出力変動が非常に少なく設備稼働率は80%を超える。

 このように、風力や地熱は大きな可能性を秘めているのであり、それを引き出すために、今後規制緩和の動きが加速していくことは間違いない。





 



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