2014年5月23日金曜日

C世代に迫るスマホ・ネット依存症の脅威 その2

 前回は、現代の日本社会に生きる人々、とりわけC世代に欠かせないインフラとなったスマートフォンとインターネットに潜む「依存」の危険性について述べた。本稿では、パソコンやスマホが我々の「脳」に与える影響について考察したい。


ネットとスマホが与えるマイナスの影響

 現在、各国の研究者の間でパソコンやスマホが脳にもたらす影響について研究が進められているが、主なものは以下の3つである。

情報処理能力の低下

 スマホに搭載されているGPSは脳内の海馬という部位の発達に影響する。本来、地図見ながら移動することは、「目に見える目標物から自分の要る場所を判断し、頭の中でどのように目的地までたどり着くかを導きだす」という高度な情報処理能力を要求される。
 しかし、スマホの位置機能はこの負荷を(善くも悪くも)大幅に軽減する。カナダのマギル大学によると、GPS機能を使い続けている人は、そうでない人に比べて情報処理に必要な灰白質が小さくなるという成果を発表している。同研究によると、スマホ使用による認知能力の低下も報告されている。

集中力の低下

 パソコンやスマホを見る際、我々はサイトからサイトに移り、ダウンロード中にメールをチェックするなどの「マルチタスク」をこなす。それぞれの作業に移る度に脳は「仕切り直し」を行っている。これを習慣化することで、脳は移り気になってしまう。つまり、すぐに注意力が散漫になったり、作業に関する記憶力が弱くなることに直結する。

思考力の低下

 インターネットを使うことで、我々はさまざまな問題の答えをいとも簡単に見つけることができる。しかし、苦労して見つけた答えは単に回答を与えられた場合よりも深く、長く記憶されることはよく知られている。また、「すぐに答えを見る」ことは、問題に対して論理的に思考する“筋肉”の低下にもつながる。
 発達心理学者のパトリシア・グリーンフィールドは、スマホ・ネットの使用による弊害を以下のように結論づけている。
 画面を注視するテクノロジーは、私たちの視覚的・空間的能力を向上させるが、その分批判的な思考力や知識や想像力の習得といった他の知力の発達が犠牲になる。

ネットとスマホが与えるプラスの影響

 「インターネットは人の頭の使い方自体を変える」ということについて、ここまでネガティブな側面だけをピックアップしてきた。しかし、米国のWired誌は以下のようなプラスの側面があると主張している。

 (Googleの検索機能に頼ることの)利点として、事実確認をして自己中心的な考え方に陥っていないかをチェックすることが挙げられる。自分の記憶を共有したり、比較したりすることで、他にも一般的な事実があるか確かめることができ、思い込みに囚われることをなくすことができる。 
 そういう意味では、あてにならない人間の脳を信じるよりも、直感的にGoogleの情報が欲しいと思うことは、健全な衝動だといえるだろう。実際、Googleに私の間違った記憶を正してもらったことは数えきれないほどある。このことが、テクノロジーが人間の脳をダメにしている兆候だということは間違っている。むしろ人間は、自分が得意としない能力をアウトソースするくらい賢いということを証明している。


結局どうしたらいいのか

 本稿のタイトルには「脅威」という言葉を使っているが、強調したいのは、「ネットやスマホを使うのをやめよう」ということが言いたいわけでは決してないということ。

 そもそも、“圧倒的な”アドバンテージがあるからこそ、ネットやスマホここまで爆発的に普及したことは明らかである。おそらく、ほとんどのC世代の若者にとって、「インターネットを使うな」という発言は「冷蔵庫を使わずに生活しろ」と同じくらいクリティカルと思われる。

 少なくとも筆者は休日ネットがなかったら一体何をしてよいのかわからない程“どっぷり”浸かったユーザーであるし、スマホがなかったら新聞や専門誌を読む習慣は身に付かず、シンクタンカーとして最低限必要な知識量に到達することすらできなかっただろう(ちなみにGPSがなかったら田舎者の私は東京でまともに暮らせていないに違いない)。

 ネットやスマホは「エレベーター(またはエスカレーター)」に似ていると思う。エレベーターの発明、普及は人々に圧倒的な利便性と効率性を与え、さらに、それまでより遥かに高い建築物の存在を可能とした。その一方で、「筋力」とか「健康」という切り口で見た場合、デメリットと捉えることもできる。

 優れたテクノロジーが与えるメリットに比べ、デメリットは小さいかもしれないが、認識を怠ることは大きなリスクを孕むことになる。「上手に」付き合わなくてはいけない。


知性を高めるために

 本稿では、現代という時代において、ネットやスマホが仕事でも日々の生活でも完全なインフラと化し、かつそれらは「思考力」という筋肉を弱める存在であると述べた。そんな中、「知性の高い」人間になるために、筆者は「思いっきり“時代”に順応することと、思いっきり“時代”に逆行すること」を同時にこなすことが重要ではないかと考える。

 つまり、ネットを用いて誰よりも大量の情報を収集する。その一方で、1日1回はネットを使えば簡単に分かることを“あえて”検索せず、自分で仮説を立て、(欲しい答えが数字の場合)フェルミ推計してみること。今年から筆者はこの習慣を続けているが、少しずつ頭のコンディションが向上した実感をすでに得ている。

 大前研一は「今の時代で成功するのは簡単だ。みんな頭を使わないから、自分で考えることができれば“その他大勢”にすぐに勝つことができる」と言ってる。この時代、いかにネット・スマホを使いつつ“考えるか”が「頭一つ抜ける」ための鍵となる。

















 

 





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